研究課題
基盤研究(C)
近年、申請者らは赤白血病細胞K562を用いて、ABO遺伝子第1イントロン内5.8kb(+5.8kb site)に血球系特異的な転写活性化領域(エンハンサ-)を見出し、この領域にはGATA転写因子が関与していることを報告した。また、Bm型では、+5.8kb siteを含む、約5.8kbの塩基が欠損していることを発見した。通常のABO式血液型1005例にこの欠損は認められず、調べたBm型及びABm型112例中111例に同じ欠損が認められ、この欠損はBm遺伝子に特異的であることが推測された。一方、欠損のないBm型では、+5.8kb site中のGATA転写因子結合サイトに一塩基置換が認められ、これによって+5.8kb site へのGATA1、2転写因子の結合が阻害され、転写活性が消失することが確認された。また、peptide nucleic acid(PNA)PCR clamping法を応用して、ABO遺伝子のO、A、Bアリルをそれぞれ特異的に増幅する方法を開発し、Bm型の一塩基置換が、Bアリルに存在することが証明できた。この方法を用いて、通常の方法では判定が不可能であるB(0.3%)、O(99.7%)のキメラ型のDNAから、B遺伝子の型を判定することに成功した。更に、Bm型と同じ正常をもつAm型の2例では、+5.8kb site内に23bpの欠損が認められた。Am型ではGATA結合サイトに変異は無いが、RUNX1結合部位が欠損しているため、RUNX1が結合できず、転写活性が消失している事が、ゲルシフトアッセイ及びレポーターアッセイによって確認された。また、+5.8kb site内に存在する数種類のSNPsの組み合わせから、6種のハプロタイプに分類出来、A型は04型、B型は06型、O型は01、02、03、05型で、ABO型の判定がこの領域でも可能であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
これまで、コード領域に変異を持たない変異型のABO式血液型の遺伝子発現制御機構は不明であったが、我々が新規に発見したエンハンサー +5.8kb siteが、血球系のABO遺伝子の発現を調節しており、Bm型やAm型の赤血球抗原減弱の原因が解明された。これらの転写調節にはGATA1、GATA2及びRUNX1転写因子が関与していることも確認され、研究の進展が見られた。また、この領域内のSNPsの組み合わせから、数種類のハプロタイプが存在し、これらがABO式血液型と関連している事から、ABO式血液型の新たな判定方法の開発にも繋がった。更にABO遺伝子のPNA PCR clamping法を開発し、キメラのような微量な抗原を産生するABO遺伝子の型判定までも可能になり、遺伝子検査方法の進展も見られ、25年度の研究目的はほぼ達成された。
Bm型のように血球系のB型抗原のみの発現が阻害されている発現調節については解明されたが、Bx型のように唾液にも抗原の減弱が見られる血液型の中で、コード領域に変異のないものでは、転写調節機構は未だ不明である。上皮系の発現機構を解明するため、ABO遺伝子下流域の細胞非特異的な転写活性化領域と推定される+41.0kb siteについて検討を重ねているが、どの領域がABO遺伝子の転写調節に関与しているのかは、これまでの実験からは明確にすることが出来なかった。+41.0kb site以外にも、レポーターアッセイによって転写が活性化される領域があり、これらの領域も含めて、今後はClustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat法を用いたゲノム編集により、細胞非特異的な転写活性化領域を特定するとともに、Chromosome Configuration Capture法を用いて、ABO遺伝子のプロモーターや+5.8kb siteとの関与を明らかにする。更に、これらの転写調節に関係する転写因子を同定する。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (5件)
Vox Sang
巻: 106 ページ: 167-175
10.1111/vox.12077
Transfusion
巻: 53 ページ: 2917-2927
10.1111/trf.12181
DNA多型
巻: 21 ページ: 122-126