研究実績の概要 |
ヒ素は猛毒であるが、治療薬としても用いられてきた。近年、急性前骨髄性白血病の治療に用いられているが、一方、重大な副作用として、心臓毒性がある。本研究はヒ素の心臓に対する毒性についての分子生化学的研究である。 平成25年度、マウス心房細胞由来のHL-1細胞の亜ヒ酸(ATO)毒性に対するParkinの作用を調べた。亜ヒ酸1-10 μM、24時間曝露の条件で、Apoptosis, ubiquitin-proteasome, 系、autophagy-lysosome 系を調べ、ミトコンドリア膜電位の低下、典型的なapoptotic cell deathが見られた。また、Parkinのミトコンドリアへの移動、Parkin基質のVDAC1 のubiquitination増加、proteasomal activity増加が見られた。autophagy-lysosome 系の活性化は見られたが、著明ではなかった。Proteasome inhibitor bortezomibによりapoptotic cell deathが増加した。 平成26年度、細胞内ユビキチン化タンパクの変動について検討した。K48結合型ポリユビキチン鎖はプロテアソームによる分解シグナル、K63結合型ポリユビキチン鎖はリソソームによる分解シグナルであり、抗マルチユビキチン鎖抗体(FK2抗体)、抗K48ポリユビキチン鎖抗体、抗K63ポリユビキチン鎖抗体すべての解析において、ATO用量依存的にユビキチン化タンパクの蓄積が認められた。 平成27年度、動物実験として、ラットに5mg/kg B.W. i.p. のATOを投与し、6h 、48h後に臓器を回収し、ヒ素の標的であるPML蛋白質の動態について、western blotting で解析した。心臓では変化はなかったが、脳において、48h後、PML蛋白質の変動(増加と減少の両方)を認めた。 心筋由来細胞の亜ヒ酸による細胞傷害時に、Parkinが活性化され、さらにubiquitin-proteasome系を活性化することが、ミトコンドリア品質管理、細胞の恒常性維持につながり、細胞保護的に作用している。
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