研究課題/領域番号 |
25460870
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 典昭 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60176097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 敗血症 / 法医解剖 / 細菌感染 |
研究概要 |
病院内における長期入院患者はその終末期には様々な感染症に罹患し、その感染症やさらに進んで敗血症により死亡することがある。また最近の医療事故、医療過誤事例の中には過失が疑われる行為があった後さらに、MRSAのような多剤耐性菌の病院内感染を起こし死に至ったのではないかと疑われる例がある。それらの解剖症例における死後の起炎菌の同定による感染症の診断は、生体と同様に解剖時に採取した血液やその他の資料の培養を行うとともに、病理組織学的に細菌感染があることを証明し、その感染病巣を特定して行ってきた。また全身の詳細な病理組織学的検査によりその感染程度、敗血症の有無を判断し、最終的に感染症が直接の死因であるか否か特定してきた。しかしそれだけでは感染時期の特定が不可能であり、多剤耐性菌感染による死亡例のように種々の紛争が起こる可能性のある敗血症への対応としては不十分である。 そこでまず研究計画に沿って、ラットを用いて肺炎感染症を作成し、死亡直後および一定時間恒温環境下に放置した動物を実験材料とした。 各ラットよりできる限り無菌的に血液、鼻孔内ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、左右肺切開面ぬぐい液を採取し、細菌培養を行った。その結果、無菌的な各試料の採取方法は確立できた。しかしながら、培養した細菌に多様性が見られ、どれが敗血症あるいは死亡の原因となった細菌かの同定が容易でなかった。特に、死後経過時間が数時間を超えた実験動物では、死後感染ないしは常在菌の死後全身への拡散による修飾のため、検出された細菌の評価が難しかった。そこで左右肺においては組織切片を作成し、従来の染色に加え、各種細菌染色を追加し、細菌の死後感染と生前の感染の選別を試みたところ、グラム陰性桿菌の肺への感染において、興味ある知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ラットを用いて肺炎感染症を作成し、死亡直後および一定時間恒温環境下に放置した動物を実験材料としたが、肺炎感染症から敗血症への進行過程が十分に把握できていない。その主たる原因は採血血液量の少なさや溶血により、血清CRPなどの感染関連因子の値の正確な測定ができなかったこと、同様の理由により、一定時間後の血中薬物濃度の測定ができなかったことにある。 また、ポリグラフにより、脳波、血圧、呼吸、脈圧を測定し、実験動物の病態の変化を感染直後から敗血症完成時、その後一定時間(ショックによる死亡時まで)観察する計画を立てたが、実験動物としてラットを用いたため血圧、呼吸、脈圧等の軽微な変化を十分に捕らえることができず、体温変化等の間接的な所見をもって判断せざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
死後経過時間が数時間を超えた実験動物で行った、左右肺の組織切片の各種細菌染色において、細菌の死後感染と生前の感染の選別を試みたところ、グラム陰性桿菌の肺への感染において、興味ある知見が得られたので、この点についてさらに実験例数を増やして検証する。また、実際の過去の解剖例について肺組織切片を再作成し、各種細菌染色を行い、実際例における知見を得る。 各採取資料からジェネテイックアナライザーを用いてDNA分析を行い、細菌同定を行い、血液培養によって同定した細菌との比較を行う。 血液、鼻孔内ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、左右肺切開面ぬぐい液以外の肝臓、腎臓などの実質臓器からのぬぐい液、心嚢液、胸腔内液等の無菌的採取方法を確立し、全身各所における培養細菌の違いを確認し、敗血症起炎菌の同定を可能にする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果発表のために出張予定であった学会が福岡で開催されたため、出張に使う予定であった当該年度に予算請求した旅費を全く使用しなかったため。また、消耗品についても、以前より行っていた実験で使用していた機材、試薬がそのまま使用可能であったため。 研究成果がまとまったため、積極的に各学会に参加、成果発表を行い旅費を使用する。実験についても、ジェネテイックアナライザーを用いてDNA分析を行うため、より多額の消耗品代を使用する。
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