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2014 年度 実施状況報告書

小児・高齢者への虐待に基づく好中球侵襲による臓器障害の解明と法医診断学的応用

研究課題

研究課題/領域番号 25460872
研究機関鹿児島大学

研究代表者

小片 守  鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (10152373)

研究分担者 林 敬人  鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (40512497)
研究期間 (年度) 2013-04-01 – 2016-03-31
キーワード社会医学 / 高齢者虐待 / 好中球浸潤 / 肺胞マクロファージ / 免疫組織化学 / HMGB-1 / TLR4 / MMP9
研究実績の概要

これまでわれわれは,身体的虐待による広範な外傷が炎症性メディエーターを動員し,特に肺などの臓器に好中球が浸潤することを報告してきた。今回,好中球浸潤の前段階に関与するdamage-associated molecular patterns (DAMPs)の受容体であるToll-like receptor(TLR)4,炎症細胞が産生する分子のうちMatrix metalloproteinase(MMP)発現について検討した。
高齢者の身体的虐待死11例,対照例(鋭器損傷死,単独の鈍器損傷死,多発外傷死各6例)の肺切片を試料として,DAMPsの受容体であるTLR4発現について免疫組織学的に検討したところ,虐待死例では肺胞マクロファージにおけるTLR4発現が他群と比較して有意に多くみられた。
次に,炎症時に産生され基底膜の構成成分であるⅣ型コラーゲンの切断し,組織破壊に導く酵素の一つであるMMP9の発現について検討したところ,虐待死例では肺胞マクロファージにおける発現が他群と比較して有意に多く認められた。蛍光二重免疫染色を行い,MMP9発現細胞についてさらに詳細に検討したところ,肺胞マクロファージの他に血管平滑筋細胞にも発現を認めたが,好中球には発現を認めなかった。
以上の結果から,高齢者の身体的虐待死例でみられた肺への好中球浸潤は虐待ストレス等に基づく肺胞マクロファージからのHMGB1-TLR4シグナルによって惹起されること,肺胞マクロファージ自身もMMP9を産生することで,好中球と共に直接的に組織破壊を促進する可能性があることが証明された。今回の検討によって,虐待から好中球侵襲を経て臓器障害に至るまでの全容の大部分が明らかとなり,より正確な虐待の法医病理学的証明法の確立に向けて前進したと考える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1.虐待事例の概要,死因,肉眼的・組織病理学的所見の検討:当初の計画通り,高齢者に対する身体的虐待死事例を他大学との共同研究によって11例集め,それらについて事例の概要(年齢,性別,虐待の手段と期間,受傷から死亡までの時間など)の資料を得るとともに,損傷の部位及び程度,各臓器の肉眼的・組織病理学的所見について検討を行った。
2.好中球浸潤の前段階に関与する因子の発現様態の解明:好中球浸潤が確認された高齢者の身体的虐待死例の肺において,肺胞マクロファージ由来のHMGB1がTLR4を介して好中球浸潤の前段階機序に関与している可能性があることを免疫組織学的に証明した。
3.肺胞マクロファージが産生する組織障害因子の発現動態の解析:肺胞マクロファージが産生するMMP9が基底膜を破壊することで炎症の促進に関与している可能性を証明した。当初,好中球がMMPを産生することで組織破壊に関与していると想定していたが,好中球には発現を認めなかった。したがって,当初の計画とはやや異なるが,高齢者の身体的虐待死例の肺では,好中球に加えて肺胞マクロファージによる組織障害がもたらされていることを新たに証明することが出来たと考える。

今後の研究の推進方策

本年度と継続して虐待事例の例数を増やし,同様の検討を行う。また,高齢者に加えて小児の身体的虐待死事例でも同様の検討を行い,年齢を問わず虐待によって同様の現象が起こっているのか否かを明らかにする。
好中球が産生する組織障害因子など今回検討できなかった分子について検討することで,実際に好中球浸潤によって組織障害が起こっていることを直接的に証明する方法を検索する。また,種々の原因にもとづく多臓器不全例でも同様の検討を行い,臓器障害の程度を比較することで,身体的虐待の危険性・予防の重要性を社会に訴えるための基礎資料の作製を目指す。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2014

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Temporal expression of wound healing-related genes in skin burn injury2014

    • 著者名/発表者名
      Kubo H, Hayashi T, Ago K, Ago M, Kanekura T, Ogata M
    • 雑誌名

      Legal Med

      巻: 16 ページ: 8-13

    • DOI

      10.1016/j.legalmed.2013.10.002.

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Forensic diagnosis of ante- and postmortem burn based on aquaporin-3 gene expression in the skin2014

    • 著者名/発表者名
      Kubo H, Hayashi T, Ago K, Ago M, Kanekura T, Ogata M
    • 雑誌名

      Legal Med

      巻: 16 ページ: 128-134

    • DOI

      10.1016/j.legalmed.2014.01.008.

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [雑誌論文] Temporal changes of the adrenal endocrine system in a restraint stressed mouse and possibility of postmortem indicators of prolonged psychological stress2014

    • 著者名/発表者名
      Hayashi T, Ikematsu K, Abe Y, Ihama Y, Ago K, Ago M, Miyazaki T, Ogata M
    • 雑誌名

      Legal Med

      巻: 16 ページ: 193-196

    • DOI

      10.1016/j.legalmed.2014.03.005.

    • 査読あり / 謝辞記載あり
  • [学会発表] 入浴死解明-肺heat shock protein 70等の発現を指標とした溺死と虚血性心疾患の鑑別-2014

    • 著者名/発表者名
      林 敬人,吾郷一利,中前琢磨,小片 守
    • 学会等名
      第64回日本法医学会学術九州地方集会
    • 発表場所
      鹿児島市(鹿児島市町村自治会館)
    • 年月日
      2014-10-10 – 2014-10-11
  • [学会発表] Immunohistochemical detection of interleukin (IL)-8 in cases of blunt head injury: its application as a diagnostic marker of axonal injury and time of injury determination2014

    • 著者名/発表者名
      Hayashi T, Ago K, Higo E, Ogata M
    • 学会等名
      The 9th International Symposium on Advances in Legal Medicine (ISALM)
    • 発表場所
      福岡市(福岡国際会議場)
    • 年月日
      2014-06-16 – 2014-06-20

URL: 

公開日: 2016-05-27  

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