研究課題/領域番号 |
25460876
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
石川 隆紀 鳥取大学, 医学部, 教授 (50381984)
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研究分担者 |
道上 知美 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00529240)
前田 均 大阪市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (20135049)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低酸素・虚血 / 窒息 / 頭部外傷 / 甲状腺関連ホルモン / 視床下部 / 下垂体 / 甲状腺 / 法医病理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,低酸素・虚血状態における甲状腺関連ホルモンの動態を,窒息死診断の観点から解析することにある.これまでの検討として,剖検時採取された左右心臓内血液などを用いてサイログロブリン(Tg),トリヨードサイロニン(T3), サイロキシン(T4)および甲状腺刺激ホルモン(TSH)について,各部位の測定を行った.その結果,死後経過時間との相関は認められないものの,加齢に伴いT3, T4は有意に低下していた.Tgは,臨床基準値よりも全般にやや高値を示すものの,死因別の有意差は認められなかった.一方,T3およびT4は,ほぼ臨床基準値内ではあるものの,窒息,急性頭部外傷および火災例において高値を示した.T4とT3の比(T4/T3)を観ると,窒息および急性頭部外傷例では,他死因群に比較して高値を示した.縊頸,絞頸,鼻口閉塞などの窒息分類別に,T3およびT4を検討したところ有意差は認められなかった.Tgでは,絞頸や鼻口閉塞で高値を示したものの,縊頸,異物吸引および溺死では低値を示した.T3およびT4とTSHとの相関は認められなかった.それら結果から,低酸素・虚血状態における,T3およびT4を主体とした甲状腺関連ホルモンの上昇が認められることが明らかとなり,Tgの結果からは,窒息の原因により病態が異なるものと推測された.さらに窒息や急性頭部外傷における甲状腺の病理組織学的変化を明らかにするために,リンパ球浸潤,過形成,濾胞構造の崩壊像,濾胞上皮細胞の空胞形成,濾胞結晶化,実質内出血,濾胞の大小不同,濾胞内異染色性などについて調査を行った.その結果,窒息および頭部外傷では,濾胞構造の崩壊所見が高頻度に認められ,窒息分類別にみると,縊頸や鼻口閉塞例で多く,吐物吸引例での頻度は低かった.それら結果から,低酸素・虚血状態において,甲状腺濾胞構造の崩壊とともに,血中T3およびT4を主体とした甲状腺関連ホルモンの上昇が認められることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の報告によると,甲状腺ホルモンの上昇は,窒息死例で高頻度に認められたことから,頸部圧迫による直接的な甲状腺への物理的刺激に影響されているものと推測されていたものの,近年,急性頭部外傷例における甲状腺関連ホルモンの上昇も報告されたことから,その意義については一定の見解は得られていなかった.今回の各部位におけるサイログロブリン (Tg), トリヨードサイロニン (T3)およびサイロキシン (T4)などの甲状腺関連ホルモンの測定検査の結果,Tgでは,臨床基準値よりも高値を示す症例が多く認められたものの,死因別の有意差は明らかではなかった.一方,左心血と右心血のT3およびT4において,窒息,急性頭部外傷および火災関連死で高値を示した.T4とT3の比(T4/T3)を観ると,窒息および急性頭部外傷例では,他死因群に比較して高値を示した.T3およびT4の検査結果とTSHとの相関は認められなかった.また,甲状腺の病理組織学的検討から,窒息や急性頭部外傷例において,濾胞構造の崩壊所見が高頻度に認められた.その結果から,甲状腺ホルモンの上昇は,頸部圧迫などによる甲状腺への物理的な刺激による分泌や死後変化などではなく,低酸素・虚血状態に伴う甲状腺細胞および甲状腺関連ホルモンの変化と推測された.本研究結果は,甲状腺関連ホルモンの変化とともに甲状腺病理組織形態変化について,国際学会の場において既に発表し,研究は最終段階に達している.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は概ね順調に進んでいる.最終目標である論文掲載には未だ達していないことから,最終年度である本年度において,論文掲載を目標とする.ただし,本研究結果である甲状腺関連ホルモン,特にサイロキシン(T4)の変化は,低酸素・虚血状態を反映しているものと考えられるものの,心臓血のみの変化なのか,中枢機関である視床下部の変化や,末梢循環を評価するための末梢血における各種甲状腺関連ホルモンンの変化についても昨年度同様検討に加えていく必要がある.さらに,甲状腺の病理組織における甲状腺関連ホルモンの変化についても検討を行う必要性がある.よって,本年度はこれまでのデータを整理するとともに,低酸素虚血状態に伴う甲状腺ホルモンの変化として,上記内容を最終研究内容として行い,その結果を科学雑誌に論文を掲載することを最終段階の目標とする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究に使用予定であった免疫染色用インキュベーションチャンバー,染色バスケット,各種抗体類および二次抗体などを購入した際,当時公表されていた予定価格よりも安価に購入することができたため,購入予定額と実質購入金額との間に上記金額の差が生じたものである.
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度残余分の研究費は,本年度使用抗体費用および最終年度にあたる平成27年度の学会発表のための経費および論文掲載費などの目的に使用するものとする.
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