研究実績の概要 |
Wistar系雄性ラット(10週齢)に10%エタノールを含んだ液体飼料(Lieber食)を10週間投与し,慢性アルコール摂取ラットを作製し,上腸間膜動脈を摘出し等尺性張力を測定し対照群と比較した。アルコール投与群は対照群と比較してアセチルコリンによる内皮依存性弛緩反応が増加していた。一方,一酸化窒素(NO)合成阻害剤下での弛緩反応はアルコール群で増加していた。Western blotによるeNOSの蛋白発現量およびカリウムチャネル阻害剤存在下での弛緩反応が2群の間で差がなかった。一方,NO合成阻害剤下での弛緩反応はアルコール群で増加していた。 このことから,アルコール群での弛緩反応の増加はNOを介した弛緩反応ではなく,内皮由来の過分極因子(EDHF)を介した反応の増加によることがわかった。 また,EDHFを介した反応の増加はカリウムチャネルagonistのレブクロマカリムの弛緩反応及びカルシウムイオノフォアA23187による弛緩反応は2群間で差がなかったことから,アルコール摂取による弛緩反応の増加は内皮細胞でのレセプターのレベルで生じていることが示唆された。また,電気刺激による神経由来の弛緩反応について2群間で比較したところ,アルコール投与群は対照群に比べ弛緩反応が有意に低下した。この弛緩反応はCalcitonine-gene-related-peptide(CGRP)阻害剤で完全に阻害されたことからCGRPを介していることが明らかになった。一方,CGRPagonistによる弛緩反応は2群間で差がなかったことから,アルコール摂取によるCGRPを介する弛緩反応の抑制は平滑筋レベルではなく神経末端レベルで生じていることが示唆された。 慢性のアルコール摂取は高血圧などを発症するが,今回の結果は血管の反応性の観点から弛緩反応が増加しており,むしろ血圧の上昇に対して予防的あるいはそれ以上の血圧上昇を防ぐ機能が生じていることが示唆された。
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