本年度は、前年度に引き続き生体試料中のキノコ毒の分析を重点的に行った。前年度、ツキヨタケ中毒患者の試料中から毒成分のイルジンSの検出が困難であったことから抽出方法を改良して、より低濃度での分析を可能にした。この方法を自施設と他大学の高感度機器を利用して実際症例の分析を行ったが、イルジンSの検出には至らなかった。このことより、ツキヨタケによる中毒の証明は、血清や尿より食べ残しの植物が最適と判断した。一方、副産物的なデータではあるが、ツキヨタケの塩蔵がイルジンSの除去に極めて有効なことが判明した。次いで、当初、計画には入れてなかったが、安価な幻覚薬として使われる可能性のあるミリスチシンの分析方法の開発を行った。ミリスチシンは、ナツメグに含まれる成分であるが、幻覚作用を有する他、10数個の摂取で致死的となる化合物である。この化合物のLC-MSMS分析を試みたが、感度が得られなかったため、GC-MSで分析を行ったところ良好な結果が得られたため、引き続きGC-MSでバリデーションを行った。抽出は、MonoSpin C18FFで行った。その結果、1 ng/mlを定量限界として1000ng/mlまで極めて良好な直線性を有した。日内、日差の再現性も良好であった。回収率も80%以上となり満足できる結果が得られた。この方法をナツメグの過量摂取患者の試料に応用したところ、分析が可能であった。この結果から、致死的な摂取を含む過量摂取に対しては、LC-MSMS分析でも対応可能と判断したが、血中からミリスチシンが消失するまでの分析を継続的に行うには、GC-MSが最適な分析機器と結論できた。
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