【目的】インクレチンシグナルの骨代謝に及ぼす影響を検討する。 【方法】①細胞培養実験によりGIP、GLP-1投与による骨芽細胞分化、骨細胞機能への影響を検討する。②マウスにDPP-4阻害薬を投与し、骨構造への影響を検討する。③糖尿病患者における血中DPP-4の骨代謝、骨折リスクとの関連性を検討する。 【結果】①未分化間葉系細胞ST2、骨芽細胞様細胞MC3T3-E1、骨細胞様細胞MLO-Y4を用いてGIPとGLP-1受容体の発現を検討した。ST2にはGLP-1受容体が、MC3T3-E1とMLO-Y4にはGIP受容体が発現していることをRT-PCR、DNAシークエンスにて確認した。ST2の培養液にGLP-1あるいはexendin-4を添加し、骨芽細胞分化マーカーや石灰化染色を行ったが明らかな変化は認めなかった。MC3T3-E1にGIPあるいはD(Ala-2)GIPを添加し、骨芽細胞分化マーカー、石灰化染色を行ったが明らかな変化は認めなかった。また、MLO-Y4にGIPあるいはD(Ala-2)GIPを添加し、RANKL、SOST、OPG発現への影響を検討したが有意な変化は認めなった。これらのことから、インクレチンは骨芽細胞、骨細胞には直接影響しない可能性が考えられた。②DPP-4阻害薬であるalogliptin含有餌を作成し、マウスに3カ月間経口投与を行い、大腿骨を採取してマイクロCTにて骨構造を解析した。しかしながら、通常餌マウスに比較して骨量、骨構造指標ともに有意な差は認めなかった。③2型糖尿病男性における、血中DPP-4濃度と糖代謝・脂肪指標との関連性を横断的に検討した。ロジスティック回帰分析により血中DPP-4濃度の上昇が多発椎体骨折のリスク因子であることが明らかになった。さらに、重回帰分析により内臓脂肪量と血中DPP-4濃度との間に有意な正の相関を認めた。これらのことから、インクレチン不活化物質であるDPP-4の血中濃度は内臓脂肪肥満により上昇し、多発椎体骨折のリスクを上昇する可能性が考えられた。
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