研究概要 |
組織局所でのレニン-アンジオテンシン系(R-A系)のAT1受容体系の病的な過剰活性化は老化にともなう心血 管病の発症・進展に深く関与している.また,老化にともなう心血管病の発症・進展において,アンジオテンシ ン II (Ang II)=老化にともなう心血管病促進因子,そして,1型Ang II受容体(AT1受容体)=老化にともなう 心血管病促進因子受容体として捉えることができる.本研究は,AT1受容体結合性低分子蛋白(AT1 receptor-a ssociated protein; ATRAP)の発現・活性調節機構異常と老化にともなう心血管病との関連について多面的に検 討し,ATRAPの老化にともなう心血管病における病態生理学的意義の解明,およびATRAPに着目した新規分子標的 治療法の開発に向けた検討を行うものである. 本研究では,老化関連心血管病の病態解明,新規治療開発のために,平成25年度は, (1) ATRAPの発現・活性調節による老化関連遺伝子制御の検討(研究分担者 田村功一). 培養細胞系での検討によりATRAP遺伝子発現調節における基本転写制御機構の意義について明らかにする.研究結果ではATRAP遺伝子が内在性に高発現している腎尿細管細胞の系において,ATRAP遺伝子の発現調節に重要 な複数のプロモーター領域を同定し,細胞・組織の分化に関連するRunx-3などの転写調節因子の関与を明らかにした .さらにアデノベクターやsiRNAを 用いて培養細胞でのATRAP発現を調節することにより,病的刺激下での寿命・老化関連因子発現(SA-beta-gal, p53, p21, Nampt, sirtuin),酸化ストレス産生(superoxide, NADPH oxidase, rac1),炎症関連因子産生(MCP-1, PAI-1)を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,老化関連心血管病の病態解明,新規治療開発のために,『AT 1受容体情報伝達系の病的刺激による過剰活性化に対する内在性抑制機序を担う受容体結合分子』として機能し ている可能性があるATRAPに着目して,(1) ATRAPの発現・活性調節による老化関連 遺伝子制御の検討,(2) 老化の病態モデルにおけるATRAP調節機序の検討,(3) 発生工学的手法を用いた臓器特 異的ATRAP過剰発現マウスおよびATRAP欠損マウスでの老化および老化にともなう心血管病の病態の検討と新たな 老化関連病態モデル動物としての検討,(4) ヒトでの老化にともなう心血管病の病態における組織局所でのATRA P発現の検討,行っており,平成25年度に予定していた (1) ATRAPの発現・活性調節による老化関連遺伝子制御の検討が順調に遂行できた.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度については,(2) 老化の病態モデルにおけるATRAP調節機序の検討(研究分担者 戸谷義幸). 老年病態モテル動物(SAM マウス,Klotho マウス,SMP30/GNL 欠損マウス,KKAy糖尿病マウス,db/db糖尿病マウスなど)におけるATRAPの組織特異的発現調節について検討する予定である.具体的な研究計画として老化高血圧モデ ル動物でのATRAP遺伝子発現調節異常についての検討を進めテイク予定であり,ヒト本態性高血圧のモデル動物である自然 発症高血圧ラット(SHR)やDahl食塩感受性高血圧ラットにおいて,高血圧にともなう組織特異的なATRAP発現抑制状態の存在と降圧薬による臓器障害の改善における組織特異的な内在性ATRAP発現回復効果の関与を明らかにする予定である.
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