研究実績の概要 |
組織局所でのレニン-アンジオテンシン系(R-A系)のAT1受容体系の病的な過剰活性化は老化にともなう心血管病の発症・進展に深く関与しているとされる.本研究では,ATRAPの発現・活性調節機構異常と老化にともなう心血管病との関連について多面的に検討し,ATRAPの老化にともなう心血管病における病態生理学的意義の解明,およびATRAPに着目した新規分子標的治療法の開発に向けた検討を行っている. 本研究では,平成26年度においては,老化の病態モデルにおけるATRAP調節機序の検討(研究分担者 田村功一,戸谷義幸)を中心に検討した.具体的には,老年病態モテル動物(SAM マウス,Klotho マウス,SMP30/GNL 欠損マウス,KKAy糖尿病マウス,db/db糖尿病マウスなど)におけるATRAPの組織特異的発現調節について検討している.すでに予備的研究として老化高血圧モデル動物でのATRAP遺伝子発現調節異常についての検討を進めており,ヒト本態性高血圧のモデル動物である自然発症高血圧ラット(SHR)やDahl食塩感受性高血圧ラットにおいて,高血圧にともなう組織特異的なATRAP発現抑制状態の存在と降圧薬による臓器障害の改善における組織特異的な内在性ATRAP発現回復効果の関与を明らかにしている (Shigenaga A, Tamura K, et al. Hypertension 52: 672-678,2008; Dejima T, Tamura K, et al. J Hypertens 29: 1919-1929, 2011).また,研究分担者の戸谷らはAT1受容体情報伝達系にも影響をおよぼすことが報告されているカベオリンに着目して,3型カベオリンがインスリン受容体情報伝達系に作用して糖尿病の病態を改善しうることを明らかにしており,本研究において組織局所での情報伝達系解析を行った (Otsu K, Toya Y, et al. Am J Physiol Cell Physiol 298: C450-C456, 2010; Oshikawa J, Toya Y, et al. Proc Natl Acad Sci U S A 101: 12670-12675, 2004).
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策に関しては,発生工学的手法を用いた臓器特異的ATRAP過剰発現マウスおよびATRAP欠損マウスでの老化にともなう心血管病の病態の検討を進めて行く予定である. 具体的には,まず,gain-of-function strategyとして,全身性ATRAP高発現マウス,各種臓器特異的ATRAP高発現マウスを用いる.また,loss-of-function strategyとして,gene targeting法を用いてATRAPの機能上重要なエクソン3, 4, 5を欠失させることにより作製済みの全身性ATRAP欠損マウスを用いる.これら発生工学的ATRAP発現制御マウスを用いて,Ang II負荷,高食塩食負荷,高脂肪食負荷などの老化亢進をともなう病的刺激を加え,組織における寿命・老化関連因子発現(SA-beta-gal, p53, p21, Nampt, sirtuinなど),酸化ストレス産生(superoxide, NADPH oxidase, rac1など),炎症関連因子産生(MCP-1, PAI-1など)を解析して行く予定である.
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