漢方薬による副作用のうち最も頻度の高いものは、甘草含有処方による偽アルドステロン症である。その発症の原因物質は、甘草に含まれるグリチルリチン酸(GL)を経口摂取した後に肝機能不全時に血液中に表れるその代謝物である3モノグルクロニルグリチルレチン酸(3MGA)であることが強く示唆されている。本研究では、血中または尿中濃度をELISAを原理として定量する方法を開発し、血中また尿中3MGA と副作用発症との関連を実証するとともに、その発症予防のための3MGA 簡易測定検査キットを開発を目的とした。 まずはじめに、偽アルドステロン症の発症の原因と考えられる3MGAを特異的に認識するモノクローナル抗体を開発し、それにより3MGAの濃度を測定するためのELISA系を開発した。その測定系は、GLや血液中の主代謝産物であるグリチルレチン酸(GA)とは交差反応しなかった。 次に、3MGAを血中に蓄積するMrp2欠損ラット(EHBRs)にGAを経口投与し、血液と尿を採取、従来通りのLC/MS/MSとこの抗体を利用したELISA法とで同時に3MGA濃度を定量した。その結果、血液、尿、どちらの場合でも、ELISA法による実測値は、LC/MS/MSでの実測値と比較して10倍程度の値を示した。そこで、GAを投与したEHBRsの尿を薄層クロマトグラフィーで展開し、抗3MGA抗体を用いたイースタンブロッティング法で検出を試みたところ、3MGAではない未知の化合物による陽性スポットを検出した。このスポットを指標にして、EHBRの尿から新規化合物であるcompound 1を単離、同定した。今後、このcompound 1の11βヒドロキシステロイド阻害酵素(11β-HSD)II阻害活性と、その血中濃度の測定を行い、本化合物の偽アルドステロン症発症への関与について検討する予定である。
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