【目的】大脳皮質下病変は慢性動脈硬化性疾患の一病型であるという考え方のもと、マウス慢性脳低還流モデルを用いて、病変形成過程を検討することを目的としている。特に中性アミノ酸の輸送体であるL-amino acid transporter(LAT)の関与の有無について研究するとともに、性差や加齢の影響も併せて検討する。 【実験】①マウス慢性脳低還流モデルの作成と評価:既報(Stroke 2004; 35: 2598-2603)に従って、9~11週齢の雄性C57BL6Jマウスの両側頸動脈周囲に狭小コイルを巻き付けることで脳血流量を抑制し、慢性脳低還流状態を誘導した。術後脳を摘出し、パラフィン切片作製後に脳標本を鏡検すると、7,14,28日後と経時的に脳梁などにおいてGlial Fibrillary Acidic Protein(GFAP)免疫染色強陽性を呈した。またLuxol Fast Blue染色を行うと、28日後には脱髄によって示される大脳白質病変が脳梁、内包、線条体などで認められた。傷害脳の大脳白質におけるLATの発現については現在検討中である。②学習記憶試験:コイル装着後28日目から32日目にかけて学習記憶試験として新奇物体認識試験を行ったところ、test phaseにおいて非傷害コントロールマウス(n=10)に比べてコイル装着マウス(n=11)は新奇物体に興味を示さず(p=0.06)、オブジェクトへの総探索回数も少なかった(p=0.03)。すなわち、狭小コイル装着による慢性脳低還流状態で、マウスの探索嗜好性や記憶力が低下していた。 【結論】新奇物体認識試験は海馬非依存性、運動能力非依存性であり、さらに事前の食事制限も不要の試験である。今回の検討は若年マウスで行ったが、老齢マウスにも使用可能と考えられる。また本モデルは脳の病変形成と学習記憶試験評価に有用であった。
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