研究実績の概要 |
【目的】慢性脳低還流を誘導して実験的に大脳白質病変を形成させ、病変形成に対して加齢、性差などのリスクがどのように影響するかを調べるとともに、表出する行動変化について検討を行う。 【実験】12週齢のC57BL/6Jマウス(雌雄)の両側頸動脈に狭小コイルを巻き付け、脳低還流状態を誘導した。術前および術後4週間毎にY maze testを施行し、自発行動量の評価およびワーキングメモリの評価を行った。さらに手術より1年経過した時点で学習記憶試験として新奇物体認識試験を施行した。 【結果および結論】Y maze testにおいて、コイル非装着マウスでは試験実施回数が進むに従って自発行動量が減少し、迷路に対する興味や意欲が薄れてきたのに対し、コイル装着マウスでは自発行動量の低下は認められなかった。また進入成功回数により表わされるワーキングメモリには統計学的な有意差は認められなかった。すなわち慢性脳低還流状態にある高齢マウスでは、長期にわたる継続的な刺激に対して順応しづらいことがわかった。術後1年時点(65週齢)における新奇物体認識試験では、sample phase時の総探索回数がコイル非装着マウスと比べてコイル装着マウスで有意に低かった(65回 vs 43回,p=0.02)。しかしtest phaseにおいて新規オブジェクトを認識する割合には両群間で有意差は認められなかった。すなわち、慢性脳低還流状態にある高齢マウスでは、意欲は低下するものの、短時記憶は保たれていることがわかった。雌性C57BL/6マウスでも同様の検討を行ったが、コイル装着術後の飼育中に白内障を発症するマウスが多かった(6匹中2匹で発症)Y maze testおよび新奇物体認識試験を施行したが、視覚的な問題もあり結果の解釈が困難であった。以上の行動変化はヒトにおける大脳白質病変を持つ場合の臨床的症状と合致すると考えられた。
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