研究概要 |
p53は,細胞がDNA障害などのストレスを受けた際に細胞死を誘導する最も重要な癌抑制遺伝子のひとつであり,消化器癌でも高頻度に変異が認められる.そこで,ゲノム網羅的p53結合配列のコンピュータ解析と,次世代シーケンサーによるクロマチン免疫沈降産物解析(ChIP-seq)を組み合わせることで,p53の直接的な転写標的の同定を試みた. まず,p53結合モチーフRRRCWWGYYY+spacer+RRRCWWGYYYを用いたp53結合配列予測アルゴリズムによりin silicoでヒトゲノムの全塩基配列を検索したところ,636,233のp53結合配列候補が同定された.次に,p53が欠失している癌細胞に対してアデノウイルスを用いてp53を導入しChIP-seqを行ったところ,36,089,861のリード配列が得られた.この配列をBowtieソフトウェアを用いてヒトゲノムと照合したところ,48.9%が適切にマッピングされた.マッピングされた配列を元にMACSソフトウェアを用いてリードの積層によるピークを検出したところ,8630領域が認められた.このうちin silicoで同定されたp53結合配列候補を含むものは1447(16.8%)であった.この中には,既知のp53標的遺伝子であるp21やMDM2が含まれていたことから,解析手法に問題はないと考えられた. In silico p53結合配列解析とChIP-seqで同定された領域について,近傍に存在する長鎖遺伝子介在性非コードRNA(large intergenic non-coding RNA, lincRNA)をその遺伝子座情報を用いて検索したところ,約150のlincRNAが存在することが明らかとなった.今後,これらのlincRNAについて発現および機能解析を進めていく予定である.
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