研究実績の概要 |
既に論文(Anal Biochem 496, 35-42, 2016)にて公表したムチン糖鎖切り出し条件のさらなる検討の結果,10μmolマロン酸の存在下,60℃,6時間の気相ヒドラジン処理により,ムチン糖鎖が最少の分解で切り出されることを,前年度に見出した。そこで,本年度,この条件で切り出したムチン糖鎖を蛍光標識後,親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)で分析して得られるグライコームが,従来行われている還元アルカリ分解で得られた糖鎖のメチル化体の質量分析で得られるグライコームと同じであるかどうかを,ラット胃から精製したムチンを材料にして検討した。その結果,両者は良い一致を示し,開発した方法により,ムチン糖鎖のグライコミクス解析が可能であることが明らかとなった。さらに,前者の方法では,後者の方法では困難な糖鎖の異性体も解析できることを見出した。 蛍光標識した糖鎖の解析には,取り扱いに若干の注意を要するヒドラジンの代わりに,アンモニア等のアルカリを使用する方法も報告されている。そこで,それらの方法との比較を行った結果,アルカリを用いる方法では,分解によって生じるアーティファクト糖鎖が混在することが明らかとなった。それらは,ムチン糖鎖のグライコミクス解析を誤らせる可能性があることも見出した。以上の結果は,論文としてまとめ,現在,投稿中である。 ムチン糖鎖取得法がほぼ確立されたので,当初の目的である部位特異的糖鎖の発現場所を特定する検討を開始した。部位特異的糖鎖を認識する抗体の探索を行うために,糖鎖をプラスチックプレートに固定し,反応する抗体を得ることを試みた。上記ヒドラジン法で得られた糖鎖にアントラリロイルヒドラジンを反応させて生じた生成物をプレートに結合する検討を行い,実験系をほぼ確立した。現在,抗体の探索実験を行っている。
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