研究課題
1)感染実験による検討MALTリンパ腫動物実験に関して、H. heilmannii (Hh)感染C57BL/6マウスを用いてMALTリンパ腫形成に関連するmediatorについての検討を行ってきた。本年度は、特にsubstance P、微小循環系、幹細胞とMALTリンパ腫との関連に注目した検討を中心に行った。MALTリンパ腫におけるsubstance Pなどの関与を検討するため、substance P, その受容体のNK1Rの局在およびsubstance P拮抗剤のaprepitantおよびspantide II投与後の変化を検討した。さらにsubstance P, NK1R、calcitonin gene-related peptide (CGRP)を検討し、毛細血管内皮細胞、リンパ管、幹細胞の局在を比較検討した。また、substance P拮抗剤投与後の変化を検討した。その結果、胃、肝リンパ腫では、substance P免疫活性は、腫瘍内に散在性に観察され、NK1R免疫活性は腫瘍全体に認められ、特に腫瘍内の微小循環系内皮細胞上に分布した。spantide IIあるいはaprepitant投与後には、腫瘍の大きさは有意に縮小し、apoptosis陽性細胞が特に胚中心周辺に認められた。陽性細胞には微小循環系内皮細胞が多く含まれていることも明らかとなり、幹細胞にも関係することが示唆された。2)臨床例における検討症例による検討に関しては、H.heilmannii陽性症例がかなり集積してきた。その疾患としては、MALTリンパ腫に加え慢性胃炎、鳥肌胃炎が主であり、Helicobacter pylori陰性例に限れば、その半数近くがH. heilmannii陽性例であることが明らかとなった。そこで、臨床例を用いて、substance P, NK-1R, CD31, Musashi-1陽性細胞の局在を検討した結果、マウスの結果とほぼ同様の所見が得られた。以上より、ヒトMALTリンパ腫においても、substance P拮抗剤が、Helicobacter pylori除菌療法や抗がん剤無効例において有意義であることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
感染実験による検討に関しては、免疫組織化学によるMALTリンパ腫に関するsubstance Pの関与の検討はかなり進んだ。その結果、リンパ腫との関連については、リンパ球に対する反復性刺激などによる炎症性のリンパ球の増殖が最初におこり、その後の遺伝子の転座などにより腫瘍化にいたると考えられているが、substance Pは、この初期の機転から関与すると考えられている。胃MALTリンパ腫の形成機転に関しては、Helicobacter属細菌をはじめとした抗原刺激によりまずpolyclonalな増殖が起こると考えられている。この点についてはH. heilmannii感染モデルを用いた検討から、substance P陽性壁在神経およびその受容体のNK-1Rが、リンパ腫形成初期に豊富に分布し、substance P免疫活性陽性部位は輸入細動脈、輸出細静脈周囲に認められるだけでなく、幹細胞を含むリンパ腫細胞上にも分布した。さらに拮抗剤のspantide II、aprepitant投与により腫瘍増殖が抑制されることから、MALTリンパ腫におけるsubstance Pの重要性が明らかとなった。臨床例についての検討では、qRT-PCRをH. heilmannii感染の判定に用いることが可能となったため、陽性率が向上し、症例が徐徐に集積しており、統計学的な検討が可能な症例の検討が可能となった。その結果、組織化学的手法でsubstance Pと幹細胞の検討も可能となった。その結果、マウスの感染モデルと同様にMALTリンパ腫形成にsubstance Pが関与することを示唆する所見が得られた。
次年度には、動物実験に関しては、VEGF, c-Met拮抗剤のAxitinib投与によるMALTリンパ腫形成について検討する。特に血管新生に関してはVEGFとともに血管新生に促進作用をもつVasohibin2 (VASH2)の局在およびAxitinib投与時の変化について検討する。また、感染マウスの全身的な検討から、Sjogren症候群に類似した涙腺におけるリンパ球集族を認めた。この変化はいまのところ唾液腺では観察されていない。この病変は、胃と同様にMALTリンパ腫への進展が想定され、その点もSjogren syndromeに近いと考えられ、Helicobacter属の感染がその病因の一つの可能性もあり、少なくともその実験モデルになると考えられる。そこで、Sjogren syndromeの診断に必須と考えられるSSA, SSB抗体、CD70陽性リンパ球の有無似ついて検討する予定である。また、症例による検討に関しては、qRT-PCRを用いることにより、H. heilmannii陽性例がMALTリンパ腫および胃炎症例で多く認められることが明らかとなっている。MALTリンパ腫については、臨床例における幹細胞、微小循環系について詳細な検討を行う予定である。また、以前共同研究したモンゴルのグループなどと相談して、その検体についてH. heilmanniiについて再検討する予定である。さらに、3年間のまとめとして、幹細胞、微小循環系の観点からMALTリンパ腫形成および治療反応性との関係を総括する予定である。
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