研究概要 |
われわれは、腫瘍血管を構成する周細胞に発現し免疫反応の標的となる抗原としてHBB1, EphA2, TEM1, RGS5, NRP1, DLK1などを同定した(Zhao X, Bose A, Komita H et al.188(4)1782-1788. 2012 J Immunol.)。これらの抗原を標的とした免疫療法と腫瘍血管を標的とした分子標的薬Sunitinib malateの併用療法は難治性消化管間葉系腫瘍に対する新規治療法となる可能性が期待できる。本研究では上記抗原のうち最も強く抗腫瘍効果を誘導する抗原を決定し、GISTモデルマウスを使用して免疫療法と分子標的療法の併用効果を検討する。さらに、日本人に多数を占めるHLA-A24における上記抗原の免疫反応性を検討し、ヒトGIST治療に向けての基礎的知見を得る。平成25年度は、GIST症例における周細胞抗原の発現と臨床的特徴の解析を中心に研究を遂行した。GISTにおける腫瘍血管周細胞上に発現し、免疫原性が高いと推測されるEphA2, TEM1, DLK1, NRP1,RGS5, HBB1の腫瘍血管上での発現と臨床的特徴(性差、臨床病期、予後など)の解析を免疫組織染色の検討を中心に行った。腫瘍血管上に免疫組織染色(ABC法)によりHBB1の発現が見られたが、正常胃粘膜、大腸癌の腫瘍血管上ではHBB1の発現が認められなかった。また、腫瘍血管上ばかりでなく腫瘍細胞自身にもEphA2の発現増強が認められた。腫瘍血管周細胞上にHBB1の発現があるかどうかを免疫二重染色で確認したところ周細胞マーカーであるNG2,RGS5,αSMAとHBB1の共染色が示唆された。HBB1の発現局在の同定を確定する目的でHBB1を免疫染色(ABC)後電子顕微鏡で観察したところ腫瘍血管周細胞上にHBB1の発現がやはり示唆される結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
過去の外科術後ホルマリン固定標本を用いた免疫組織染色や電子顕微鏡を用いた検討でGIST腫瘍血管周細胞上にHBB1やEphA2の発現が示唆されたが、現在までの実験実施症例数では、その抗原発現の程度と各症例の性差や臨床病期、予後、腫瘍の大きさによる抗原発現の有意差は認められなかった。今後より実験実施症例数を増やすことにより抗原発現の程度と臨床病期、予後などとの相関を検討していく予定である。また、現在までの免疫染色実施症例では、腫瘍血管周細胞上に発現が期待されるNRP1, TEM1, DLK1の発現は認められなかった。が、今後実験症例数を増やし検討を重ねていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
GIST腫瘍血管周細胞上に発現しているHBB1やEphA2がGIST腫瘍に特異的なものかどうか確認するため、間葉系腫瘍であるfibrosarcomaに対する腫瘍血管でのHBB1、EphA2の発現の有無を確認する。また、他の消化器癌 胃癌、大腸癌、膵癌、肝癌(可能であれば他科領域の癌)などの腫瘍血管上でのHBB1,EphA2の抗原発現を免疫染色の検討により行う。平成25年度までの検討でGIST腫瘍血管周細胞上に発現ができなかった、NRP1, TEM1, DLK1などについても実験症例の蓄積を行い、再評価を行う。また、術後ホルマリン固定標本では、抗原発現が減弱している可能性もあるので、外科手術後の新鮮凍結組織を用いて、免疫染色や電子顕微鏡による観察を行い腫瘍血管周細胞上のHBB1,EphA2ばかりでなく、NRP1, DLK1, TEM1の発現検討を行う。 ヒトHLA-A24遺伝子導入マウスを用いたペプチドワクチンによる抗腫瘍効果の検討(1),GIST疑似腫瘍血管周細胞高発現ペプチド発現性肉腫を皮下移植し、移植モデルを作成するヒト腫瘍血管周細胞高発現性ペプチドをパルスした樹状細胞をワクチンとして腫瘍移植マウスに皮下接種し、マウスの生存期間や一定期間後の腫瘍径の測定により抗腫瘍効果を判定する。同時にワクチン治療とSunitinib malateの併用により抗腫瘍効果の増強効果や腫瘍血管障害の程度などの解析行う。(2),免疫マウス脾細胞からCD8+T 細胞採取し、前記で使用した腫瘍血管周細胞高発現性ペプチドをパルスしたHLA-A※2402発現標的細胞に対する細胞障害活性を測定する。(3),Tunnel染色により腫瘍細胞のapoptosis誘導の頻度、血管内皮細胞、血管周細胞のマ―カーに対する特異抗体を用いた腫瘍組織の免疫組織学的検討を行い、腫瘍血管障害の有無と程度について検討する。
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