研究課題
基盤研究(C)
炎症性腸疾患は近年著しい増加傾向にある若年発症の慢性疾患で、消化管局所の免疫応答異常を特徴とする。申請者はこれまでに、炎症消化管における免疫細胞の細胞表面分子の発現異常と、その原因となるエピジェネティック変化を見出している。炎症性腸疾患は長期にわたり腸炎の再燃と寛解を繰り返し、慢性化した患者には治療抵抗性となり、炎症が制御不能に陥り手術適応に至る場合がある。そこで、本研究ではエピゲノムの視点から炎症の重篤化機構の解明を目指している。炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎、クローン病、および対照として正常大腸粘膜よりCD33陽性樹状細胞/マクロファージ、CD3陽性T細胞をそれぞれ分離し、申請者らが確立したスモールスケールクロマチン免疫沈降(ChIP)法に適した条件で細胞を固定後、抗ヒストンメチル化(H3K4、H3K9、H3K27)抗体を用いたChIP法を行い、得られたDNAから作製したライブラリーを次世代シークエンサーを用いた網羅的シークエンスにより解析した。また同時に抽出したDNAおよびRNAを用い、MeDIP-seq法によるメチローム解析、serial analysis of gene expression (SAGE)-seq法によるトランスクリープトーム解析を施行した。各々のエピジェネティック修飾変化についてバイオインフォマティックスによる統合解析中であるが、炎症関連遺伝子の発現に関連する細胞種特異的エピゲノム変化を見出している。
1: 当初の計画以上に進展している
臨床検体を用いた研究においては研究目的に使用できる標本量に限りがあり、このことが研究推進のネックになる場合が多々あるが、これまでは1千万~1億細胞は必要とされていた網羅的エピゲノム解析のためのChIP法を、本研究ではヒト検体より分離した免疫細胞(T細胞、樹状細胞/マクロファージ)を用いて、10万個以下の非常に少数の細胞数で達成した点は、目覚ましい進歩である。
炎症性腸疾患で見出された免疫細胞(T細胞、樹状細胞/マクロファージ)におけるヒストン修飾(H3K4、H3K9、H3K27等 のメチル化)異常、DNAメチル化異常と、転写制御および細胞機能との関連について検討する。また、直接発現には関連しなくても、慢性化・重篤化に関連する変化が無いか、更にバイオインフォマティックス解析を進める。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Nature Immunology
巻: 15(6) ページ: 571-579
10.1038/ni.2886