本研究は、肝細胞癌の増殖におけるエキソソームを介した機能性RNA輸送機構を明らかにし、診断マーカーおよび治療標的の発見を目的とするものである。
肝癌における細胞間コミュニケーションにおいて、分泌タンパクを介した細胞増殖制御の他に、エキソソームを介したマイクロRNA輸送による増殖制御機構が存在するが、マイクロRNA以外の機能性RNA輸送に関しての報告はほとんどなされていない。比較ゲノム学の手法により発見されたゲノム上のultraconserved elements、その転写産物であるultraconserved RNAは、生物学的に重要な役割を持つことが強く示唆され、大腸癌・白血病および肝細胞癌においてその発現プロファイルが異なることが明らかになったが、エキソソームを介したultraconserved RNA輸送はまったく明らかにされていない。
われわれは、5種類のヒト肝癌細胞株の培養上清からエキソソームを回収し、カスタムデザインのPCRアレープレートを用いて、ultraconserved RNA発現の網羅的解析を行い、エキソソームに特異的に高発現する複数のultraconserved RNAを同定した。肝癌細胞において、これらのultraconserved RNAをノックダウンし、肝癌細胞の増殖に与える影響を検討し、数種のultraconserved RNAが肝癌細胞の細胞増殖制御に関与している事が明らかとなった。また、ヒト肝癌組織(切除検体)におけるultraconserved RNA発現の網羅的解析を、カスタムPCRアレイプレートを用いて解析し、癌部に特異的な高発現を示すultraconserved RNAとしてuc.88およびuc.252を同定した。uc.88の成熟転写産物はマイナス鎖から転写される588bのlong non-coding RNAと推測された。
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