本研究では非アルコール性脂肪性肝炎(以下NASH)を基盤とした肝発癌モデルとされる肝細胞特異的PTEN 欠損マウス(以下PTEN KO)を用いて、NASH肝発癌におけるマクロファージ、腸内細菌叢、そしてToll様受容体の役割を解析した。一般的にNASHではマクロファージなどの炎症細胞が肝蔵内に集積し、そこから産生される炎症性サイトカインが肝障害を引き起こし、それが肝癌へと誘導すると考えられている。まず腸内細菌に由来する細菌構成成分が肝臓での炎症や発癌への寄与をみるため、抗生剤を長期投与したところ炎症や肝発癌が抑制された。次にToll様受容体(TLR)の検討を行った。細菌は大きくグラム陽性菌と陰性菌に分かれる。TLR2はグラム陽性菌、TLR4はグラム陰性菌の構成成分を認識する。そこでTLR2またはTLR4欠損マウスとPTEN KOマウスを交配して、NASH発癌にはどちらの種の細菌が重要か決定した。PTEN-TLR4 double KOマウスではNASHや肝発癌が抑制されたことから腸内細菌の中でもグラム陰性菌が重要であることが分かった。次にマクロファージに発現するTLR4の役割を検討するため、骨髄移植によるキメラマウスの作成や試薬によるマクロファージ除去を試みた。それら実験ではマクロファージを含む血液由来細胞に発現するTLR4が病気の進行に関与し、マクロファージ除去によりさらにNASHや肝発癌が改善した。さらにNASHにおいてはマクロファージが腸内細菌に由来するLPS(TLR4のリガンド)に対して過剰に反応して、炎症性サイトカインを産生することを我々は明らかにした。この炎症性サイトカインはさらに癌幹細胞を早期に出現、増殖させ、癌細胞の増殖に寄与していることを明らかにした。これらの結果から腸内環境を健康に保つことや炎症細胞を抑制することが肝癌の予防になると考えた。
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