研究課題
従来のプロテオーム解析等に比べ実際の表現型に最も近いとされるメタボローム解析を応用し、HCV増殖に関与する代謝物質群(経路)を網羅的に解析・同定することを目的とした。平成25-26年度において、米国食品医薬品局のMajor博士から提供してもらったプラスミドおよびChisari博士から分与してもらったHuh7.5.1細胞を用いて、80-90%近い感染効率と培養上清中への高力価のHCVウイルス分泌が確認できる感染培養系を構築した。平成26-27年度はこの系を用いてキメラHCV感染前および感染後96時間後の感染細胞および培養上清を用いたメタボローム解析を行った。その結果、細胞内および上清中代謝物について、陰イオン・陽イオン代謝物各240種を網羅的に同定できた。HCV感染細胞では非感染細胞と比べ、アルギニン以外のすべてのアミノ酸の有意な低下を認め、解糖系の低下も認めた。一方培養上清では、アミノ酸量はHCV非感染細胞と比べ同程度かむしろHCV感染細胞で増加していたころから、HCVキメラウイルス感染により細胞内のアミノ酸合成が障害されている可能性が示唆された。また、TCAサイクル前半に位置するクエン酸、シスアコニット酸、イソクエン酸もHCV感染細胞では著明に減少しており、HCV感染細胞では細胞内エネルギー代謝が阻害されている可能性が考えられた。実際のHCV感染患者について、これらエネルギー代謝経路の発現解析を行ったところ、TCAサイクルに関連する複数の代謝物が有意に減少していた。血中HCV RNA量が高値であるほどこれらの減少量は大きい傾向にあり、ウイルス増殖と細胞内エネルギー代謝が関連している可能性が示された。以上より、HCV感染は感染した細胞内のエネルギー代謝経路を阻害することが示唆され、これらの細胞内エネルギー代謝経路をバイオマーカーとして用いることで、これらをターゲットとした新たな創薬につながる可能性があると考えられた。
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J Gastroenterol
巻: 51 ページ: 1069-1077