研究概要 |
近年,腫瘍細胞選択的に増殖し腫瘍を融解壊死する種々の「腫瘍融解ウイルス」が癌の遺伝子治療用ベクターとして注目されている。特に,顆粒球・マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)遺伝子武装腫瘍融解ワクシニアウイルス JX-594は,海外での肝細胞癌に対する第I,II相臨床試験で高い安全性と画期的効果を示し,有望視されている。一方,近年,いくつかの腫瘍融解ウイルスが癌幹細胞をも殺傷することが報告されたが,JX-594では全く不明である。本研究では,肝細胞癌の癌幹細胞を単離し,それらに対する JX-594の殺細胞効果を検証することを目的とした。平成25年(初年)度は,肝細胞癌の癌幹細胞を単離することを目標とした。培養癌細胞中の癌幹細胞が分化すれば,癌幹細胞は減少し,分化した癌細胞が増加する (population switch)との仮説に基づき,各種のヒト肝細胞癌細胞株 (HuH-7, Li-7, PLC/PRF/5, HLF, HLE)を長期に培養し, 既報の各種肝細胞癌幹細胞マーカー(CD133, CD90, EpCAM, CD24, CD13)の変化をFACSにて解析することにより癌幹細胞を同定し,分離を行った。造腫瘍能の変化をヌードマウスにて検討し,分離した細胞集団が癌幹細胞の特徴を有していることをin vitroにおけるALDH活性やspheroid形成能,stemness関連遺伝子の発現解析(マイクロアレー法),等により確認した。その結果,Li-7細胞が唯一,癌幹細胞の階層性とpopulation switchを示し,同細胞中のCD13+CD166-細胞は,やがてCD13-CD166+細胞へと分化し,それに伴いLi-7細胞の高い造腫瘍能は失われた。CD13+CD166-細胞は,Li-7細胞の全細胞集団を再構成することが可能,かつ高いALDH活性,spheroid形成能を示し,stemness関連遺伝子の発現も確認された。平成26年度以後,この肝細胞癌幹細胞(CD13+ CD166-細胞)に対する腫瘍融解ワクシニアウイルス JX-594の効果を検討する予定である。
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