研究課題
トリメチル化ヒストンH3K9は、トリメチル化ヒストンH3K27などと同様に転写抑制性ヒストン修飾として機能することが知られている。ESETあるいはSUV39H1がヒストンH3K9のトリメチル化酵素として機能するが、肝臓の幹細胞あるいは癌における機能についてはほとんど解明されていない。肝癌培養細胞におけるSUV39H1のノックダウンでは、細胞増殖抑制、アポトーシス誘導がみとめられたが、ESETのノックダウンでは有意な変化はみとめられなかった。SUV39H1とトリメチル化ヒストンH3K9の発現レベルは相関を示したが、ESETとトリメチル化ヒストンH3K9の相関はみとめられなかった。以上より、ESETは限られた標的遺伝子のlocusにおいて転写制御を行うものと考えられた。肝癌臨床検体の検討でも、SUV39H1とトリメチル化ヒストンH3K9の発現レベルは多くの症例で相関し、術後再発の予測因子としての有用性が示唆された。ところで、HDACやESET等から成るクロマチンリモデリング複合体のスキャフォールドとして機能するTif1betaのノックアウトマウスでは、脂肪肝を経由して肝癌を発症することが報告されている(Bojkowska et al, Hepatology 2012;56:279)。われわれは、Alb-creマウスとの交配により得られた肝臓特異的ESETノックアウトマウスを生後6ヵ月後、12ヵ月後の時点で評価したが、上述の変化はみとめられなかった。
3: やや遅れている
癌における解析(培養細胞、臨床検体)は予定通りに進行した。マウスにおける解析は、肝臓特異的ESETノックアウトマウスの繁殖を行い、成体肝における解析を先行させたため、肝幹細胞の解析のために使用予定のタモキシフェンにより発現制御可能なESETノックアウトマウスの繁殖はやや遅れた。
ESETノックアウトマウスの胎児肝臓より肝幹細胞を分離・回収し、コロニーアッセイを行うことで、幹細胞機能を評価する。さらに、RNA-seqあるいはChIP-seqによる標的分子の同定を行い、ESETによる肝幹細胞の制御機構の解明を試みる。
当該研究の進行状況が遅れ気味だったため、次年度使用額が生じた。
比較的少額であり、物品費(消耗品購入費)、人件費として使用予定である。
すべて 2015
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Int J Cancer
巻: 136 ページ: 289-298
10.1002/ijc.28985