われわれは、高密度オリゴヌクレオチドアレイを用いた消化器癌細胞株における網羅的なゲノム異常の解析により、肝癌細胞株HT17にHippo pathwayの構成因子であるWW45のホモ欠失があることを認め、さらにゲノムDNAのシークエンスにより、HLE、HLF細胞に機能喪失変異、臨床検体2例にもミスセンス変異を認めることを見出した。また細胞株のデータベースによるとSK-HEP1細胞にもこのpathwayのLATS1遺伝子の変異を認めている。 これらの細胞はいずれもCD90陽性であることが報告されており、われわれのさらなる検討では、Hippo pathwayとの関連が示唆されているCD4や受容体型チロシンキナーゼであるAXLの発現も陽性であることを確認した。形態的には間葉系細胞を示唆する所見も伴っており、ビメンチンの発現も強く認めた。 われわれは、計15種類の肝癌細胞株を有しており、ゲノム異常のデータを有している。この中で、HLE、HLF、HT17、SK-HEP-1、JHH4、SNU449の6種類の細胞では、CD44、CD90、AXLが高発現である一方、非常に興味深いことに、残りの9種類の細胞ではほとんど発現しておらず、明瞭に区別された。 Hippo pathwayは、細胞同士が接触したときに活性化しリン酸化タンパクが核内に刺激を伝え、最終的に増殖因子であるYAP1やWWTR1をリン酸化、核外に汲みだすことで細胞増殖を抑制するシグナルである。WWTR1は乳癌(Cell 2011; 147: 759-72)とグリオーマ(Genes Dev. 2011; 25: 2594-609)において幹細胞や上皮間葉転換 (EMT)との関連が示唆されている。しかしHLF細胞においてYAP1やWWTR1のノックダウン実験を行ったところ、CTGFやTGFβ2といった線維化にかかわる遺伝子が下流にあることが確認できた一方で、CD90自体は直接の下流ではなかった。JHH4やSNU449においては、YAP1やWWTR1自体の発現が低下しており、このシグナルとの関与は明らかにできていない。
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