研究課題/領域番号 |
25460991
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 健 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (60594372)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | ウイルス肝炎 / 免疫学 |
研究実績の概要 |
B型肝炎の免疫研究には小動物を用いたHBVに対する免疫応答の解析が有用であり、従来は主にHBV トランスジェニックマウスが使用されてきた。しかし、このモデルでは肝炎は自然発症せず、B型肝炎免疫の一側面しか解析できない点が問題であった。本研究では、ウイルス抗原(HBs抗原)を任意の時期に肝特異的に発現させることにより肝炎を自然発症する新たなHBVモデルマウスを構築し、次世代シークエンスによるトランスクリプトーム解析(RNA-seq)を解析ツールとして、より包括的にB型肝炎における免疫応答を解明することを目指している。今年度の研究成果として、作成したCre存在下にHBs抗原を発現するコンディショナルトランスジェニックマウスとタモキシフェン投与により任意の時期に肝特異的にCreを発現するAlb-Cre-ERT2マウスを交配させ、得られたマウスにタモキシフェンを投与し、肝臓内でのHBs抗原発現の有無を確認した。ELISAによるタンパクレベルでの検出は弱かったが、qPCRによるmRNAレベルではHBs抗原の発現が示唆された。現時点では、組織学的あるいは生化学的レベルで明らかな肝炎が確認できていないが、今後実験条件を工夫することにより、よりよい肝炎モデルの構築を目指す。一方、本研究では遺伝子改変マウスを用いるため、HBV感染肝細胞内で生じる自然免疫応答に関しては解析できない問題がある。そこで、近年開発されたin vitro HBV感染培養細胞系(HepG2-NTCP細胞)を用いてRNA-seqを行い、HBV感染細胞内での自然免疫応答の解析を行った。その結果、自然免疫関連遺伝子の有意な発現上昇はみられず、少なくとも今回の検討の範囲内では、HBV感染では自然免疫応答が生じない、もしくはRNA-seqの検出感度以下のレベルであることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作成したCre存在下にHBs抗原を発現するコンディショナルトランスジェニックマウスとタモキシフェン投与により任意の時期に肝臓特異的にCreを発現するAlb-Cre-ERT2マウスの交配をすませ、タモキシフェン投与による肝内でのHBs抗原をmRNAレベルで確認している。今後の実験条件の工夫により、安定したHBs抗原発現と肝炎惹起が可能になると期待される。RNA-seqは本研究における解析のメインツールであるが実験系は十分に確立しており、RNA-seqによるHBV感染細胞での自然免疫応答の解析がすでに進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
今回作成したマウスでは、現時点においてHBs抗原のタンパクレベルでの発現や肝炎発症が確認できておらず、タモキシフェン投与法を含め、さらなる実験条件の改良が求められる。これらの問題を解決したうえで、抗原発現誘導後に時系列で採取した各種免疫細胞の免疫応答をRNA-seqで解析する。次に、先述のとおり本研究で作成のマウスは遺伝子改変マウスであり、HBV感染肝細胞内の自然免疫応答は解析できない。本研究はB型肝炎における免疫応答の包括的な解明を目指しており、HBV感染肝細胞を用いた実験も継続する。現時点で得られている実験結果では、HBV感染肝細胞ではインターフェロンに代表される自然免疫関連遺伝子の発現上昇を認めないが、最近HBV感染初期にインターフェロン応答がみられるとする報告がなされたため、HepG2細胞よりもvivoの肝細胞に近いとされ、HBV感染性を有するiPS由来肝細胞を用いて同様の解析を試みる。
|