研究課題/領域番号 |
25461000
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
加藤 正樹 九州大学, 大学病院, 助教 (60444808)
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研究分担者 |
古藤 和浩 九州大学, 大学病院, 講師 (80289579)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 低酸素 / 慢性肝炎 / 肝硬変 / 肝線維化 / 肝発癌 / 類洞血流 / 末梢血単核球 / 定量的PCR |
研究概要 |
低酸素による肝炎の進行・増悪と肝細胞癌発癌メカニズムの解析のために、慢性肝障害動物モデルにおける検討と、慢性肝障害患者の末梢単核球における検討を行った。 Wistar系雄性ラット8週齢にチオアセトアミド0.03%含有水を投与し、肝硬変に至る慢性肝障害動物モデルを作成した。投与開始後6週間(T6群) および12週間 (T12群) の時点で以下の実験をおこなった。肝微小循環および低酸素状態を組織学的に評価するために、肝臓摘出前にTRITCデキストランとピモニダゾールを投与した。T12群の線維化は新犬山分類F4 (肝硬変) であり、ピモニダゾール染色では偽小葉内の肝実質がび慢性に低酸素となっていることが示された。微小循環を示すTRITCデキストランは、偽小葉内の類洞のみならず線維性隔壁にも分布していた。T6群では肝実質がまだらに低酸素となっており新犬山分類F1~F2の線維化を認めた。低酸素領域のTRITCデキストラン分布は低下しており、線維化が乏しい早期の段階から類洞血流が障害されていることが判明した。 慢性肝障害患者の末梢単核球を用いた低酸素マーカーの確立のために、本年は患者標本の収集を行った。慢性肝疾患患者28名(男性14例、女性14例、平均年齢60.4歳)および健常者6例(男性4例、女性2例、平均年齢34.6歳)より標本を採取した。慢性肝疾患症例の背景は、B型肝炎8例、C型肝炎11例、非アルコール性脂肪肝4例、その他5例であり、そのうち9例が肝硬変であった。低酸素応答因子としてHIF-1、HO-1、VEGFを、炎症性サイトカインとしてTNFα、IL-6、MCP-1、TGFβを、酸化ストレス除去系としてSOD2、カタラーゼを選択し、定量的PCRのためのプライマーを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私たちはこれまでに、ラット急性肝炎モデルを用いて、TRITCデキストランおよびピモニダゾールによる肝微小血流障害と低酸素状態の評価を行った経験がある。今回この手法を慢性肝障害モデルで行い、急性肝炎と同様に肝内の血流状態と低酸素状態を評価することが可能であった。蛍光染色および免疫染色によるこれらの顕微鏡画像を融合させることにより、線維化の進行とともに肝小葉の血流が低下し、低酸素状態の拡大が進行することが見いだされた。 患者末梢血単核球の標本収集に関しては、当施設倫理委員会の認可が得られ、研究を開始することが可能となった。当初の予定では3年間で患者標本100例を目標としており、本年度はそのうち約3割が収集できたことになる。各種遺伝子発現レベルを評価するためのプライマー設定を既に行い、定量的PCRを試験的に開始している。
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今後の研究の推進方策 |
ラット慢性肝障害モデルで線維化の進行とともに認められた、蛍光デキストランで描出される血流障害領域やピモニダゾール染色で描出される低酸素領域の局在に一致して、肝線維化に最も寄与する肝星細胞や、炎症に寄与するマクロファージが分布しているか評価する。また、発癌メカニズムに関与する因子として、抗アポトーシス作用を有するBcl-xL(低酸素状態で誘導される)、アポトーシスを惹起するBNIP3(低酸素で誘導される)、癌抑制遺伝子であるp16INK4A(肝硬変や肝癌では発現が低下する)、老化に関与するP21WAF1/CIP1(肝硬変では発現が増大するが、肝癌では低下する)の免疫染色を行い、血流障害や低酸素領域における発現レベルの変化を解析する。 慢性肝障害患者の末梢血単核球より抽出したRNA標本の収集をさらに進める。同時に、低酸素誘導因子であるHIF-1、HIF-2、VEGF-A、ヘムオキシゲナーゼ(HO-1)、アドレノメデュリン(ADM)、酸化ストレス応答遺伝子としてスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD2)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの発現レベルの評価を開始する。十分な標本数が得られれば、これらの発現レベルと線維化指標であるFIB-4値との相関関係を統計学的に解析する。
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