研究課題
肝硬変や肝細胞癌の約10%はB型肝炎ウイルス(HBV)の持続感染が原因となり、肝硬変の様々な合併症や癌に対する治療が必要となる。さらに最近では一般的に治癒したと判断されるHBV患者において、特定の抗がん剤や免疫抑制剤を使用することにより再活性化をきたし生命に危険をもたらすような重篤な肝障害をきたすことが分かっている。現在、核酸アナログ製剤、ペグインターフェロン製剤を中心とした治療が行われ、活動性を抑制することが可能となっているが、短期的な治療で治癒を得ることはできていない。我々は過去に、HBVによる慢性肝疾患に関する臨床的研究、HBV遺伝子型、遺伝子変異、HBVの複製メカニズムについて多数の検討を行った。本研究では、HBVが肝細胞内でウイルス複製や構造蛋白、非構造蛋白生成のために転写する複数のmRNAをリアルタイムPCRで定量的に測定する新しい実験系を開発し、慢性肝炎から肝硬変への進行、発癌、さらには潜在性HBV感染といった臨床病態やウイルス複製機構との関連を検討する。本年度の研究では、実験系の感度、安定性に関する確認実験を行った。特にリアルタイムRT-PCRおよびリアルタイムPCR、およびpre-amplificationを用いたリアルタイムPCRの感度、定量性に関する検討、核酸失活酵素を用いた核酸精製方法の改良を行った。また異なる遺伝子型に対しても安定した検出、定量を確立するため、さらにその条件下で複数のmRNAの測定を同時に行うための実験条件の設定を行っている。
3: やや遅れている
mRNA定量における1 stepリアルタイムRT-PCR法による定量系、そして2 stepとしてランダムプライマーによるRTからcDNAを用いたリアルタイムPCRの二つの方法による感度、定量性に関する繰り返しの実験から二つの実験系の特性を評価し、基質となる検体精製手法と合わせて最終的評価を行う段階である。加えて短時間型リアルタイムPCRの導入につき実験を行っている。微量検体の定性的・定量的評価のためpre-amplificationを用いた検出方法についても増幅サイクル数等の調整を行っている。特にpre-amplificationを複数の領域に同時に行う際の実験条件の設定については各種パラメーターを変更しながら緻密な検討を繰り返し行い、感度と定量域に関する最適化を行っている。DNA、RNAの核酸失活酵素による前処置を用いた試料精製段階において、核酸失活酵素によるいずれかの核酸除去処理後にその酵素自体をさらに失活させる段階で基質量が減少する問題があり、最初に持ち込む検体量、それに対する最適な核酸失活酵素量やその後の精製段階で存在する核酸量、検出系に加える溶液量についても検討している。血清を用いる場合は、DNAに対する処理により精製される核酸量が減少するため、従来より多量の検体量を用いた核酸抽出、精製により感度を上昇させることが可能かどうかについて実験を行っている。当初、本邦においてもっとも高頻度であるHBV遺伝子型C型に対する定量を行うため、プライマー、プローブを作成し実験を遂行していたが、世界的に主たる分布を示す8種類のHBV遺伝型のうち低頻度ながら日本においても存在するHBV遺伝子型A型、HBV遺伝子型B型における同様な定量を行うためのプライマー、プローブ設定や実験条件の設定を行っている。
実際の検体を用いた各リアルタイムPCR検出系での定量を行ってゆく。微量検体や潜在性HBV感染で高感度が得られるように開発しているpre-amplificationを用いた2ndステップでのリアルタイムPCR検出に関しては、特に潜在性感染に関して、さらに感度を向上させるために検体量を増量し不純物のない核酸が精製できるかが問題となる。そのために必要となる核酸抽出方法や抽出物精製方法のさらなる改良を行う。患者群検体を用いてmRNA定量値とHBV感染慢性肝疾患患者臨床データとの解析を行う。具体的にはHBs抗原、HBe抗原、コア関連抗原といった現在定量的に評価可能となっている各種のHBV関連血清学的マーカーや血中HBV DNAとの相関性、ウイルス制御、蛋白発現に関与するコアプロモーター変異、プレコア変異といったHBV遺伝子変異との相関性について検討を行う。さらに肝細胞癌発生や慢性肝疾患急性増悪といった慢性肝疾患患者の病態やペグインターフェロン、抗ウイルス剤への治療反応性を詳細に調べてゆく。複数のmRNAを測定するため、特定のmRNAのみが発現亢進をきたす場合が考えられ、その場合は、コアプロモーター、プレコア領域だけでなくS領域といった他の領域のプロモーターやエンハンサー I、IIといった転写活性に影響を与える制御領域の遺伝子配列についても検討を行う。最初の実験系では本邦において高頻度であるHBV遺伝子型C型に対する検出系として実験をすすめたが、遺伝子型A型、B型に対する検出系を作成することにより遺伝子型の違いによって起こりうるRNAの発現の違いについても検討を加える。
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Int J Cancer
巻: 138 ページ: 1462-1471
10.1002/ijc.29880
PloS One
巻: 10 ページ: e0118000
10.1371/journal.pone.0118000