研究課題/領域番号 |
25461012
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
大越 章吾 昭和大学, 医学部, 准教授 (70231199)
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研究分担者 |
山際 訓 新潟大学, 医歯学系, 助教 (10419327)
松田 康伸 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (40334669)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | C型慢性肝炎 / インスリン抵抗性 / インターフェロン / リバビリン / RBP4 |
研究概要 |
C型肝炎患者に2型糖尿病の発生率が高いことは古くから知られており、近年のメタアナリシスでも実証されている。C型慢性肝炎患者の肝組織中には脂肪化(steatosis)が多く観察される。このようにC型肝炎の持続感染は、個体に様々なレベルのインスリン抵抗性を誘発し病態に関与することが確立されている。 一方治療に観点を移すと、C型肝炎患者のインスリン抵抗性はインターフェロン+リバビリン治療に対する抵抗性と相関すると考えられているが、その機序に関しては不明である。我々はペグインターフェロン+リバビリン治療を受けた遺伝子型1b、高ウイルス量の難治性C型慢性肝炎82例に関し、著効(SVR)達成に関係する種々の背景因子を検討した。その結果宿主遺伝子マーカーのIL28Bと並んで、インスリン抵抗性のマーカーである血中RBP4値が著効に関係する有意なマーカーとして抽出された。上記のように血中のRBP4値はIFN抵抗性と相関することが判明したが、理論的根拠は不明確であった。そこで申請者らは培養細胞系において、RBP4がIFNの効果を抑制するかを検討した。結果、興味深いことに、IFNによるPKRの発現にはほとんど変化は見られなかったが、ISGの発現は軽度増強し、また2‘-5’OASの発現は顕著に増強した。従ってRBP4が特定のIFNシグナルを抑制することが分かった。次に実際にHCV蛋白を発現する細胞を用いて解析を行った結果、RBP4をノックダウンした時に、加えたIFNの濃度依存性にHCV蛋白の減少効果が増強した。従って 実際にRBP4がIFNによるHCVの抑制効果に対する抵抗因子として働くことが証明された。興味深いことにIFNを添加しない場合においてもRBP4のノックダウンに伴いHCV蛋白は低下したことより、RBP4はHCV増殖をサポートする因子であることが分かった
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究目的の達成度に関して、申請時に以下に示した個々の研究目的に対して述べる。 目的 1、RBP4の、IFNをベースにした抗HCV療法の治療効果因子としての有用性を、前向き臨床研究で実証する。患者の層別化解析によってRBP4が特に有用な患者群を同定し、これを実際に臨床応用する際の指針を作成する。更にこの結果がIFNとプロテアーゼ阻害薬併用療法にも応用可能か否かについての臨床研究の糸口とする。(達成度)現在遺伝子型1b、高ウイルス量の患者に対する抗ウイルス療法の主流はペグインターフェロン+リバビリン+シメプレビル(プロテアーゼ阻害薬)の三者併用療法である。我々は倫理委員会によって承認された多施設共同研究(昭和大学横浜市北部病院および新潟大学第三内科)において、治療前のRBP4値が治療効果予測因子として重要であるか否かについて検討する目的で前向き臨床研究を遂行中である。現在登録症例数は50例を超え、個々の臨床データも順調に蓄積されている。今後研究期間内にRBP4の治療効果予測因子としての有用性が明らかになると期待される。 目的 2. RBP4のIFNシグナル抑制機構を解明し、なぜ治療効果予測因子として有用なのかについての理論的根拠を確立する。(達成度)これに関しては培養細胞を用いた実験が進行中である。具体的にはHCV全長レプリコンを有する細胞においてRBP4を特異的SiRNAによってノックダウンし、発現に影響を受けるIFNシグナル関連遺伝子群を網羅的に解析中である。すでに数個の遺伝子が候補遺伝子として検出されているので今後個別検証に入る予定である。 目的 3. IL28B遺伝子にコードされ、新規IFN治療薬として期待されているIFNλのシグナル経路へのRBP4の関与を解析し、その新規マーカーとしての可能性を追求する。(達成度)これに関してはRBP4のIFNλへのシグナル抑制への関与の有無を解析している。
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今後の研究の推進方策 |
1、IFNをベースにしたHCVに対する抗ウイルス療法の治療効果予測における治療前RBP4利用指針の作成(どのような背景因子を有する症例の効果予測に有用なのか?)。 これまでにHCVのコア、ISDR変異に加え、IL28B遺伝子のSNPの報告によって、個々のHCV患者の IFN治療における有効性予測がかなり可能になっており、Tailor Made医療が実現されつつある。申請者らがこれらの因子に加えて今回提案したRBP4は、実際これらの有用なマーカーに対して付加価値があるのか?あるとすればどのような背景を持つ患者に有用なのか、あるいはIFN治療中のResponseGuided Therapyにおける有用性があるか否かについて追及する。具体的には上に述べた多施設共同研究のデータを用いて多変量解析によってウイルス学的著効に寄与する因子を解析する。 RBP4は肝組織線維化の進展によって血中濃度が低下するという報告があるため、対象患者の層別化し、RBP4値がより有用である患者群を明確に割り出したい。このデータをもとにプロテアーゼ阻害薬などの新規抗HCV薬とIFN併用療法におけるRBP4の実用化指針を作成することを目標とする。 2、培養細胞を用いてRBP4のIFNシグナル抑制機構を解析する。 本段階では、①なぜRBP4がIFNシグナル経路を抑制するのか、②RBP4によるIFNシグナル抑制は、STAT1などの因子を経由しているのか、③RBP4によるIFNシグナル抑制によってどの抗ウイルス蛋白の活性化が抑えられるのか、という疑問を個別に追求する。次に全長のHCV遺伝子を発現するOR-6レプリコン細胞を用い、実際に RBP4の発現がHCV増殖にいかなる影響を及ぼすかについて解析する。また上記のIFN誘導性抗ウイルス蛋白遺伝子群に関して、個別にSiRNAを用いてノックダウンした後、IFN刺激を行い、HCV蛋白の変化をタイムコースに沿ってPCR, Western blotで解析し、RBP4がどのようなIFNの抗ウイルス機構に関与しているかを分子レベルで追求する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、以下の順番で研究を行う予定であった。まず初年度より2年間(平成25~26年)は、①IFN+リバビリンを投与するGenotype1b、高ウイルス量のC型慢性肝炎患者において、前向き研究によって種々のウイルス側、及び宿主側の背景因子と著効率の関係について解析し、治療効果予測因子中におけるRBP4の重要性の位置づけを行う。②肝がんの培養細胞株を用いた実験によってRBP4がIFNシグナルを抑制するメカニズムを解析する。 平成25年は主に上記に述べた前向き研究によって治療効果予測因子中におけるRBP4の重要性の位置づけを行うという臨床研究に主眼を置いていた。したがって培養細胞を用いてRBP4のIFNシグナル抑制効果の検証実験に関して数個の実験テーマが残る形となった。従って平成26年、27年はこのIn Vitroの実験を遂行するために研究費を使用していく予定である。 ①なぜRBP4がIFNシグナル経路を抑制するのか、②RBP4によるIFNシグナル抑制は、STAT1などの因子を経由しているのか、③RBP4によるIFNシグナル抑制によってどの抗ウイルス蛋白の活性化が抑えられるのか、という疑問を個別に追求する。培養細胞にIFNを添加しIFN誘導性抗ウイルス蛋白遺伝子の発現が阻害されるか否かを定量的PCRで解析する。次に全長のHCV遺伝子を発現するOR-6レプリコン細胞(岡山大学、加藤から供与)を用い、実際に RBP4の発現がHCV増殖にいかなる影響を及ぼすかについて解析する。また上記のIFN誘導性抗ウイルス蛋白遺伝子群に関して、個別にSiRNAを用いてノックダウンした後、IFN刺激を行い、HCV蛋白の変化をタイムコースに沿ってPCR, Western blotで解析し、RBP4がどのようなIFNの抗ウイルス機構に関与しているかを分子レベルで追求する。
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