研究課題
基盤研究(C)
膵臓癌はPanINおよび嚢胞性病変のIPMN・MCNの形態的に異なる前癌病変から発生すると考えられている。IPMN由来膵癌はPanIN由来膵癌に比べると比較的に予後が良いことから、両者は生物学的に異なると考えられてきたが、特にIPMN由来膵癌についてはその発生の分子機構は未だ十分に分かっていない。エピジェネティックスによる遺伝子発現制御が癌化に重要な役割を果たしていることが明らかになりつつある。なかでもクロマチンリモデリングに重要な働きをするSWI/SNF複合体は、近年ヒトの様々な癌種において、その構成成分のinactivating mutationsが多数報告されていることから、癌化に関わることが強く示唆される。膵臓癌に関しては、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のなかのcatalytic ATPase サブユニットであるBrg1と、DNA結合蛋白であるARID1a、ARID2において不活化の遺伝子変異があることが報告された。また興味深いことに、ヒトIPMN標本の約半数においてBrg1の発現が低下または消失していることが近年報告された。しかしながら、クロマチンリモデリング因子が膵臓癌の発生・進行にどのような働きをしているかについては未だ明らかでなかった。本研究では、 SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体のcatalytic ATPase サブユニットとして必須因子であるBrg1に焦点を当て、膵臓癌の発生・進行におけるBrg1の機能的役割を明らかにすることを目的とした。本研究により、Brg1が膵臓で活性化Kras下においてin vivoで癌抑制遺伝子としてはたらき、IPMNおよびIPMN由来膵癌の発生を抑制していることが明らかになった。本研究内容は、Nature Cell Biology 2014; 16;255-67に論文発表した。
2: おおむね順調に進展している
下記のように研究が進展したことから。1.膵臓特異的にKrasG12Dを活性化し、さらにBrg1ノックアウトを加えたマウスにおいて膵嚢胞性病変が生じる。2.膵嚢胞性病変はヒトMCNではなくヒトIPMNの特徴をもつ。3.Brg1はIPMNおよびIPMN由来膵癌の発生を抑制する。4.マウスIPMN由来膵癌はPanIN由来膵癌に比べると予後が良い。これはヒトIPMN由来膵癌がPanIN由来膵癌よりも予後がよいことに合致していた。以上のことを明らかにし、SWI/SNFクロマチンリモデリング複合体の必須因子であるBrg1が膵臓で活性化Kras下においてin vivoで癌抑制遺伝子としてはたらき、IPMNおよびIPMN由来膵癌の発生を抑制していることが明らかになった。
#膵臓癌の進行におけるBrg1の役割について、またその分子メカニズムを明らかにする①マウスのIPMN-PDAとPanIN-PDAを用いて細胞増殖マーカー(Ki67・PHH3染色)の陽性率を調べ、細胞増殖について比較解析する。②上記のマウスIPMN-PDAおよびPanIN-PDAより樹立した癌細胞株を用いて、in vitroで培養後にヌードマウスの皮下に移植し、Xenograftのモデルで癌細胞の増大について比較検討する。③上記のマウスIPMN-PDAおよびPanIN-PDAより樹立した癌細胞株を用いて行ったRNA deep sequencingの結果で、両者間での遺伝子発現について網羅的に解析し比較検討する。もしも膵臓癌の進行に重要な働きをしている遺伝子群に発現パターンの違いがみつかれば、マウスの癌標本においてもIPMN-PDAとPanIN-PDAとで発現パターンに同様の違いがみられるかどうか解析する。さらにin vitro の実験で、それらの遺伝子とBrg1との機能的な関係について、Brg1 null IPMN-PDA細胞株にBrg1の標的遺伝子となる候補の遺伝子を発現させることによって、細胞増殖・転移に関する影響をin vitro およびマウス皮下腫瘍実験モデルを用いて解析する。#IPMNおよびIPMN-PDAの起源となる細胞は何かを明らかにする①IPMNおよびIPMN-PDAはこれまで膵管細胞由来と考えられることが多かったが、厳密には明らかでなかった。通常のPanIN-PDAでさえも膵管細胞または膵外分泌細胞由来なのかまだ明らかでない。本研究では、膵管細胞、膵外分泌細胞特異的にCreを発現するマウスと掛け合わせを行うことよって、それぞれの細胞特異的なKrasG12D活性化でのBrg1欠損マウスを作成し、IPMNおよびIPMN-PDAが生じるかどうかを明らかにする。②もしもIPMN病変が生じれば、さらにRosa26R LacZリポーターマウスとも掛け合わせることによってGenetic Lineage Tracing(細胞系譜解析)を行い、病変の起源となる細胞を厳密に明らかにする。
マウスの飼育状況が、予定よりも一部で遅れていたところがあり、その分で研究費を使用する分が当初の予定よりも少なかった。またそれに伴って、物品の購入も予定よりも少ないところがあった。また旅費に関しては、今年は遠方の学会に参加しなかったため、旅費を一切使用しなかった。以上の理由から、前年度は実際に使用した分が予定より少なかった。今年度は、マウスの飼育状況も順調に進みつつあり、マウス実験を中心として、当初の予定通りの研究が進捗することが見込まれる。本年度、次年度においては、当初の予定分のマウスの飼育費用や物品の購入、および旅費に研究費を使用する予定である
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Nature Cell Biology
巻: 16 ページ: 255-267
10.1038/ncb2916.
分子消化器病
巻: 12 ページ: in press