研究課題
心房伸展刺激・メタボリック症候群・糖尿病などの心房リモデリング促進因子が心房性不整脈を惹起するメカニズムについて、マイクロRNAの関与を中心に検討を行った。マウスを用いて、心房伸展モデルは横行大動脈縮窄(Transverse aortic constriction; TAC)によって、メタボリック症候群モデルは高脂肪食(HFD)負荷によって、糖尿病モデルはStreptozocin投与によって作成した。1.マイクロRNA発現変化の網羅的解析:マイクロRNAアレイカードシステムを用いて、各モデルにおける心房でのマイクロRNAの発現を網羅的に解析した。約750のマイクロRNAの発現を定量したところ、各モデルにおいて共通して変化しているマイクロRNAを数種類同定することができた。これらのマイクロRNAについて、ターゲットとなる遺伝子を検索し、心房の組織的リモデリングに関与する遺伝子を制御していることを明らかにした。2.メタボリック症候群モデルマウス(HFDモデル)において、電気生理学的変化を中心に詳細な検討を行い、HFDモデルマウスでは心房の伝導速度が低下していること、プログラム刺激によって心房頻拍が高率に誘発されることが明らかとなった。このHFDモデルにおいては、心房で発現が上昇しているマイクロRNA(miR-27b)に着目してその寄与を検討し、miR-27bが制御する遺伝子として心房の細胞間伝導に寄与するギャップジャンクションチャネル(Cx40)を同定した。Cx40の発現はHFDモデル心房で低下しており、電気生理学的変化をよく説明できることが示された。3.さらに、TACによって心房に圧負荷を加えた心房伸展刺激モデルでは、大動脈縮窄-解除モデルを作成し、TAC術後の可逆的な遺伝子発現変化と非可逆的な発現変化について検討し、この変化に関与するマイクロRNAを検索している。
1: 当初の計画以上に進展している
我々は心房の圧負荷モデル・メタボリック症候群モデル・糖尿病モデルを作成し、それらの心房における電気生理学的変化を詳細に検討している。この電気生理学的変化を説明しうる遺伝子発現変化についてもある程度の検討は終えており、さらにマイクロRNAの発現変化を全てのモデルで網羅的に解析している。HFDモデルでは、マイクロRNAのmiR-27bがギャップジャンクションチャネル発現低下を介して心房性不整脈の発現に大きく関与することを明らかにしており、当初計画を超えた新たなメカニズムの解明が進んでいる。さらに我々は、ゲノム編集テクノロジーを用いてマイクロRNAのノックアウトマウスを作成している。ゲノム編集によるノックアウトマウスは従来の手法に比べ短期間に作成することが可能であり、実際にノックアウトの成体マウスを得る段階まで既に進んでいるため、本研究計画期間中にノックアウトマウスを用いた機能解析まで到達できると考える。これにより、当初計画には記載していなかった新たな治療戦略の提案につながるアプローチも期待される。
当初の計画通り、心房圧負荷モデルにおける炎症・線維化のメカニズムについての検討を進めると同時に、マイクロRNAを中心としてメタボリック症候群モデル・糖尿病モデルにおける心房リモデリングのメカニズムについて展開していく。平成26年度の研究によりマイクロRNAの網羅的解析を行い、圧負荷による心房伸展刺激モデル・メタボリック症候群モデル・糖尿病モデルにおけるマイクロRNA発現変化の共通点・相違点についてのデータを既に得ている。また、メタボリック症候群モデルにおいてはmiR-27bの関与についての検討をほぼ終えている。最終年度となる今年度は、以下の検討を行って研究のまとめとしたい。1.メタボリック症候群モデルにおけるmiR-27bの関与の検討を終え、miR-27bをターゲットとした新しい治療の検討を行う。既にmiR-27bのインヒビターを用いた予備実験に着手しており、今年度の計画内で達成可能と考える。さらに、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集によって作成したmiR-27bノックアウトマウスを用いてHFDモデルを作成し、心房の電気生理学的変化の検討を行うと共に、マイクロRNAをターゲットとした新規治療の可能性についての検討を試みる。2.心房圧負荷モデル・糖尿病における心房の遺伝子変化とそれを制御するマイクロRNAの関連を明らかにする。既に網羅的解析によってマイクロRNAの同定は終えており、ゲノム編集によるノックアウトマウスの作成も終えている。最終年度ではマイクロRNAノックアウトマウスの機能解析を行い、HFDモデルとは異なる心房性不整脈誘発メカニズムの解明を試みる。3.マウスモデルで得られた知見を臨床に生かすため、ヒトの検体を用いたマイクロRNAの解析を行う。心房細動および健常者から採血を行い、血清中のマイクロRNAを抽出して発現量の網羅的解析を行う。
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