心不全において心筋細胞のカルシウム過負荷が心筋細胞の働きを低下させる主因のひとつとされているが、臨床的にカルシウム過負荷を示すことが難しい。そこで心拍数を変えたときや期外収縮のあったときに、短い連結期でも十分な収縮力を発揮できる場合には細胞内でカルシウムハンドリングが良好で、収縮力が落ちたり、収縮力の増強が遅れたりする場合はカルシウムハンドリングが不良で細胞内にカルシウムがたまる過負荷の状態であると判断することとして、「頻度収縮力関係」「刺激後増強反応」「交互脈」を指標に用いて評価をおこなった。平成25年から平成28年の研究期間で、これらに関する論文として、Heart Vessels 2013;28(3):336-344. Pacing Clin Electrophysiol 2014;37:197-206. Intern Med 2015;54:2273. Int Heart J. 2016;57:317-322.を発表できた。これらの中で示したのは、拡張型心筋症では、「頻度収縮力関係」が不良で頻脈時の収縮力増強に乏しい一方で、頻脈刺激後に心拍間隔が伸びると強い収縮となる「刺激後増強反応」が強く、このような症例では「交互脈」が出やすいこと、さらに閉塞性肥大型心筋症でも高度の圧較差により収縮のエネルギーを要する時には「交互脈」が出現しておりカルシウム過負荷が示唆された。 今回の検討が侵襲的検査をもとにしていため、今後は心エコーを用いて低侵襲にデータを得たい。また、カルシウム過負荷を生じる原因については、心筋生検の所見やサンプルを用いた研究に発展させたく、今回の臨床データは、臨床で直接示すことが難しいカルシウム過負荷そのものを示すための基礎研究につながると考えている。
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