研究課題
基盤研究(C)
本研究の目的は、動脈硬化の変化を捉えるとされる血管内皮機能の規定因子、高血圧臓器障害との関連に関して、一般地域住民を対象とした大迫コホートにて横断的・縦断的検討を通じ臨床的意義を検証することである。H25度は、血管内皮機能を測定するためにUNEXEF〔ユネクスイーエフ〕・タイプBを用いてFMD(Flow Mediated Dilation)を測定し、上記を実施する計画であった。しかし、本コホートの対象者の年齢は55歳以上(平均69歳)であること、また高血圧者が7割以上であるため、既に動脈硬化が進行していることから超早期の動脈硬化の変化を捉える血管内皮機能が、必ずしも本コホートにおいて動脈硬化の変化を捉えることに最適ではない可能性があることから、他の動脈硬化と関連する指標であるPWV(脈波伝播速度)およびAI(Augmentation Index)によって動脈硬化を捉えることとした。H25年度は131名の岩手県花巻市大迫町の一般住民にAIを実施した。うち129名にPWVを実施した。AIおよびPWVの平均値は、それぞれ1690.0および86.5であった。両者の相関は無かった(r= -0.02361)。両者は動脈硬化と関連する指標であるがお互いに異なる指標であることが再確認された。次に従属変数としてAI、独立変数として性、年齢、随時収縮期血圧、中性脂肪、総コレステロールおよび頸動脈平均IMT(中膜内膜複合体厚)を投入した重回帰分析を行ったところ女性(P<0.0001)、随時収縮期血圧(P=0.0252)のみに関連が見られた。同様に従属変数としてPWVを従属変数としたところ年齢(P<0.0001)、随時収縮期血圧(P<0.0001)に関連が見られた。したがって、AIおよびPWVともに血圧に大きく依存するパラメーターであることが確認された。
2: おおむね順調に進展している
H25年度の当初の目的は1)血管内皮機能の規定因子を確認つまり、古典的な危険因子、耐糖能検査について横断的に検討し、国内外で発表された既存の報告の結果が本コホートでも再現されるかを確認し、更に、血圧日間変動や他の非古典的危険因子との関連を新たな知見を追加することであった。次に、2)血管内皮機能と既存の動脈硬化指標との関連の横断的な確認として、HASI(家庭血圧によるAASIつまり、ambulatory arterial stiffness index)、頸動脈IMTとの関連を検証することであった。しかし、概要の部分で述べたように本コホートにおいては動脈硬化のパラメーターとしてFMDではなく、AIおよびPWVを採用することとしたため、1)2)についてもAIおよびPWVを用いた解析を行うこととなり、概要で述べたような結果を得た。ただ、血圧日間変動や他の非古典的危険因子、つまりフィブリノーゲン、リポプロテインA、アポリポプロテイン、リポプロテインリパーゼ、レプチン、アディポネクチン、レニン、アルドステロン、BNP、hsCRP、尿中微量アルブミン等との関連の検討がまだ行われていないので、今後行っていく必要がある。また、25年度に測定済みの対象者数がまだ131人であるため、引き続きH26年度も測定を継続的に行い、対象者を積み上げる必要がある。そして、増大した対象者数で上記を再度分析していく必要がある。
大迫コホートでは、家庭血圧測定および予後の追跡を地域住民1200人に対して行っており、そのうち一部の対象者に対しては詳細な調査を繰り返し行っている。本申請の基本的なスキームは、上記の大迫コホートを基盤として、それにデータを収集していくものである。本コホートでは毎年150 名の地域住民を対象に詳細調査を行っており、3年間の本申請の研究期間で450人の大迫コホートの詳細調査のデータを得られる見込みである。H25年度は概要で述べたように131名のデータが得られた。H26年度以降も引き続きデータの収集を続けていく。それと並行して、AIおよびPWVに対して中間イベント指標(頭部MRI)の関連を横断的に検討:血管内皮機能と脳白質病変、ラクナ梗塞、脳体積、海馬体積との関連を検討する。本コホートの詳細調査では全員に頭部MRI 検査を行っている。H25年度の結果から得られた交絡因子を充分に補正した上で、AIおよびPWVと頭部MRI から得られる上記の指標との独立した関連を明らかにする。また、AIおよびPWVとミニメンタル(MMSE)、うつスケール(SDS)との関連を横断的に検討する。つまり、脳の機能的な指標としてのミニメンタルとの関連を検討する。併せて、うつスケールとの関連も検討する。認知症は患者本人のみならず、社会に大きな負担を国民全体に強いるものであり、その解明は非常に有用である。ミニメンタルの結果を従属変数としたロジスティック分析を行う。さらに、うつスケールに関しても閾値の前後で同様にロジスティック分析を行い、関連を明らかにする。最後に、AIおよびPWVの予後予測能を既存の動脈硬化指標と縦断的に比較検討する:脳心血管死亡、脳卒中発症、慢性腎臓病(CKD)発症をアウトカムとして、既存の動脈硬化指標の予後予測能を比較する。
H25年度は、血管内皮機能を測定するためにUNEXEFタイプBを用いてFMDを測定し、動脈硬化の変化を捉えるとされる血管内皮機能の規定因子、高血圧臓器障害との関連に関して、一般地域住民を対象とした大迫コホートにて臨床的意義を検証することであった。しかし、本コホートの対象者の年齢は平均69歳であること、また高血圧者が7割以上であるため、超早期の動脈硬化の変化を捉える血管内皮機能が、必ずしも本コホートにおいて動脈硬化の変化を捉えることに最適ではない可能性があることから、他の動脈硬化と関連する指標であるPWVおよびAIによって動脈硬化を捉えることとしたため、UNEXEFタイプBではなく、代わりにPWVおよびAIの測定装置の購入を行った。次年度使用額が生じた理由は、当初予算で計上していたUNEXEFタイプBとPWVおよびAIの測定装置の購入費用の差額が大きな寄与をしている。次年度以降も引き続き本コホートにおいて、PWVおよびAIの測定を行うとともに、古典的な危険因子(喫煙、飲酒、脂質、HbAic、血糖、尿酸、肝機能、腎機能等)、生活習慣病の治療薬剤、耐糖能検査(HOMA-IR 等)、フィブリノーゲン、リポプロテインA、アポリポプロテイン、リポプロテインリパーゼ、レプチン、アディポネクチン、レニン、アルドステロン、BNP、hsCRP、尿中微量アルブミンについても測定していくため、その費用を計上し、また、生活習慣等に関する調査票のデータ入力費用、データ整理、検査の人件費としても次年度使用額を充当していく予定である。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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