研究課題
基盤研究(C)
マルファン症候群に代表される遺伝性大動脈疾患は大動脈瘤・大動脈解離といった重大な心臓、血管合併症を来すことから、その疾患に対する発症メカニズムの解明および治療介入法に関する検討を行うことの意義は極めて大である。我々はマルファン症候群に代表される遺伝性大動脈疾患をフォローする専門外来を東京大学医学部附属病院にて開設、450名程度のマルファン症候群およびその類縁疾患を診療してきた経緯がある。7割以上の症例において大動脈拡大、瘤、解離などのなんらかの大動脈表現型を認めた。薬剤投与との関連性を検討したところ、アンギオテンシン受容体拮抗薬とベータ遮断薬を併用している症例において大動脈径の拡大速度が減じる傾向が認められた。これらの症例の約半数について遺伝子変異解析を実施、特にGhent基準陽性のマルファン症候群患者に限定した場合、約8割にFBN1遺伝子変異が検出された。またマルファン類縁疾患、非症候群性の家族性大動脈解離家系においてTGFBR1, TGFBR2, ACTA2, MYH11変異をもつ症例・家系を認めた。それらの症例の中において心臓外科手術を実施した症例の一部からは切離組織の一部を同意を得て保存し、さらにその組織から血管平滑筋あるいは線維芽細胞を初代培養を行った。一部は凍結保存しさらなる解析に供するとともに、その培養細胞について細胞内シグナル系を評価したところ、個体差が大きいものの、MAPK系シグナルが増強している傾向にあった。今後さらに遺伝子変異解析とともに細胞機能解析を進展させる予定である。
3: やや遅れている
患者診療およびデータ収集、遺伝子解析については比較的順調に進めることができたが、昨年11月に東京大学から自治医科大学に転勤となり、細胞機能についての基礎実験が実施できる体制を整える必要があり、現在その準備中である。今年度は元勤務先の東京大学・武田憲文先生との共同研究を行う形として細胞機能解析を行い、マルファン症候群あるいはその関連疾患の病態生理について検証を深めたいと考えている。
東京大学においてマルファン症候群および類縁疾患を収集、解析に供していたが、現在の勤務地である自治医科大学においてマルファン症候群をはじめとする遺伝性大動脈疾患の診療体制を整え、今後は東京大学において収集した臨床・遺伝学的データ、組織・培養細胞といったバンクに加えて、自治医科大学においても患者のリクルートに努める。加えて、疾患原因遺伝子解析は現在のところ東京大学での実施となっているが、自治医大においても実施できるよう基礎部門・遺伝部門との調整を図り実施する予定である。細胞機能解析については、マルファン症候群に代表される大動脈疾患においてTGFベータシグナル系の重要性がクローズアップされており、患者由来の細胞を用いて、各種シグナル阻害剤またはsiRNAによるノックダウン技術、あるいはウイルスベクターを用いた遺伝子導入によりTGFベータシグナル系とそれと関連するMAPKシグナルの病態への寄与について解析を続けていく予定である。またiPS細胞化を行うことも視野にいれ(共同研究先の東京大学において心臓血管系疾患の患者由来組織からのiPS化の検証が進行している)、自治医科大学、東京大学の共同研究体制のもと、マルファン症候群に関連した機能解析を進めたいと考えている。
昨年度11月に東京大学から自治医科大学へと転勤し、基礎研究を実施できる基盤を再整備する必要性を生じ、昨年11月から本年3月まで基礎実験を遂行しえなかったため、計画実施が遅延した。本年度は自治医科大学での基礎部門の先生方の協力・ご指導により自治医大内部での研究、解析が実施できる体制となり、今後この遅延を挽回したいと考えている。また東京大学においては細胞、実験動物を用いた基礎研究の実績の高い武田憲文先生に研究分担者として加わっていただき、新体制で研究を遂行する予定である。
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