研究実績の概要 |
マルファン症候群は常染色体優性遺伝の全身結合組織疾患であり①高身長や長い手足、側彎、漏斗胸などの胸郭変形などといった特徴的な体格 ②水晶体偏位 ③若年発症の大動脈解離や瘤を主な表現型としている。主な原因遺伝子はフィブリリン1 FBN1であるが現在ではフィブリリン1とトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)および受容体・シグナル伝達に関連した分子群の変異においてもマルファン症候群類似の大動脈表現型、家族性大動脈解離を呈することが明らかとなり、TGFβとそのシグナル伝達系が病態生理と治療法解明の点から注目を集めている。我々はマルファン症候群あるいは先天性・遺伝性心疾患専門外来を通じて家族性大動脈解離・瘤に関わる家系の遺伝子検索を実施し、既知の原因遺伝子に多くの変異を検出してきたが、その中には過去に報告のないものも多く含まれ、その機能的相違を転写・細胞機能レベルで評価してきた。中でも特筆すべき家系として6人の同胞中3名が大動脈解離を発症、同胞のうち2名は生存しているが、残り1名は大動脈解離で死亡、その娘も大動脈解離で死亡、その娘には3人の子がおり、第3子には動脈管開存症が認められた。遺伝子検索を行ったところMYH11 c.3766_3768delAAG, pK1256delが同定された。この領域はゼブラフィッシュから哺乳類まで完全にアミノ酸配列が保存されており重要な領域と考えられた。生体、細胞レベルでの機能解析のためcrisper-cas9システムを用いて遺伝子改変マウスを作製、大動脈解離モデルを作成すると容易に大動脈解離が生じることが示され、ヒトの病態を再現できることが判明した。現在その病態生理の解明と有効な新規治療薬探索を進めている。
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