研究課題
高比重リポ蛋白(High density lipoprotein, HDL)機能不全が動脈硬化の進展防止・退縮における新たな治療標的となりうるか明らかにすべく、本年度は下記の検討を行った。【背景】ミエロペルオキシダーゼ(MPO)はHDLの主要リポ蛋白であるApoA-1を酸化修飾し、HDLのコレステロール引き抜き能を減弱させる。他方、パラオキソナーゼ1(PON1)はApoA-Iと結合しHDL自体の酸化を抑制する。近年、HDL上でMPOはPON1を酸化し、その活性を低下させるとともに、PON1がMPOによるリポ蛋白の酸化修飾を抑制し、両者のバランスがHDL機能に重要な役割を担っていることが示唆されている。我々はこれまでに、血中におけるMPO/PON1比がHDLのコレステロール引き抜き能や抗炎症作用を反映することを報告した。しかしながら、MPO/PON1比が冠動脈疾患の新たな予測因子として有用であるかは不明であった。血清MPO/PON1比が経皮的冠動脈形成術(PCI)後の冠動脈病変の再発を予測することができるか検討を行った。【方法・結果】PCI施行後のフォローアップ冠動脈造影検査目的に入院された患者を対象に血清MPO/PON1比を測定し、再治療が必要な再狭窄もしくは新規病変の発生を一次エンドポイントとして観察を行った。MPO/PON1比高値群と低値群に分け、カプランマイヤー曲線を作成して検定したところ、MPO/PON1比高値群は低値群と比較して、イベントが有意に多く発生した。さらに年齢、性別、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙を含む多重COX比例ハザード解析の結果、高MPO/PON1比は再PCIの独立した予測因子であった。【結論】高MPO/PON1比はPCI後の冠動脈病変再発と独立した関連を認め、冠動脈疾患の二次予防に有用なマーカーであることが明らかとなった。以前の検討にて血清MPO/PON1比が高値な場合、HDLの抗動脈硬化作用が減弱していたことより、HDL機能不全が動脈硬化性疾患に対する新たな治療標的となりうることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
HDLの質的変化と動脈硬化性疾患との関連について前向きに検討するという目的に対し、一定の成果を上げることができた。
引き続きプロテオーム・メタボローム解析を含めたHDLの質的評価を行い、質的異常HDLと動脈硬化症との関連について次世代Optical coherence tomography (OCT)やVirtual histology-intravascular ultrasound (VH-IVUS)などの最新画像診断を用いて検討する。またHDLの代謝酵素である血管内皮リパーゼ(EL)のヒト血清におけるmass/活性とHDLの機能や冠動脈硬化との関連についても検討を行う。
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Atherosclerosis
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