昨年に続きAAV9-EpiregulinとAAV9-LacZの心筋梗塞における生存率に差がでないか投与量を調整しながら様々な条件下で検討を進めてきた。結果としてはいずれの条件下でも群間で生存率に差をみることができず、心エコーや組織染色でも明らかな違いを指摘することはできなかった。しかし、それらの実験の中で我々はマウスの心筋梗塞を作成した時、心内膜下に数層の心筋細胞が虚血領域であっても残存していることに気づき、同部位を詳細に評価した。同部位は虚血誘導後から低酸素状態であることを示していたが3日目から4日目にかけて低酸素状態から解除されていた。この現象から、おそらく新たな血管がいずれかの場所から発達し、同部位を還流していると予測した。還流血管を組織学的に評価することで心内膜より新生血管が発生していることを我々は見出した。同部位の遺伝子発現を調べると血管新生を促進する様々な因子が増強していた。特にその中でもVEGFの働きが大きいと考えVEGF receptorを後天的に抑制すると見事に心内膜から発生する血管は抑制されていた。さらに同部位の治療応用を考えるため心筋梗塞後から心内膜からの血管が十分に発達するまでの4日間マウスを高酸素状態に置き左心室からの酸素拡散を増強することを行った。すると予想通り残存心筋の量は増え、より心内膜から遠位にまで血管が成長していた。その効果として心エコー上左心室の拡大(リモデリング)が抑制されていた。この現象は心内膜側の心筋細胞を急性期治療によってより多く助けることができることを示しており臨床的な応用が可能であると考えられた。現に人の病理組織においても心内膜に沿って残存心筋が認められ、マウス同様の現象が起きているものと考えられた。
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