研究課題/領域番号 |
25461106
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
芦原 貴司 滋賀医科大学, 医学部, 助教(学内講師) (80396259)
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研究分担者 |
小澤 友哉 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (20584395)
原口 亮 独立行政法人国立循環器病研究センター, 情報統括部, 室長 (00393215)
稲田 慎 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究情報基盤管理室, 研究員 (50349792)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 分子心臓学 / 不整脈学 |
研究概要 |
慢性心房細動に対しては,心房内の双極電極カテーテルで記録される分裂電位CFAE(complex fractionated atrial electrogram)を標的としたカテーテルアブレーションが行われているが,臨床や動物実験における最新のマッピング装置を用いても,心房細動の慢性化やCFAEとの関連が疑われる因子を一つずつ取り出して調べることはまず不可能であり,その成因には不明な点が多い.また,CFAE標的アブレーションの有用性についても研究者間でばらつきがある.本研究は,そのような混沌とした慢性心房細動の治療戦略に理論的根拠を与えるために,ヒト慢性心房細動のコンピュータモデルを開発し,CFAE成因をシミュレーション実験で検証した上で,慢性心房細動アブレーションにおける最適戦略の提案を目指すものである. これまでに研究代表者らは,心房筋における線維芽細胞の増生および心房筋細胞との電気的結合が,心房の活動電位持続時間を短縮し,静止膜電位を浅くすることで組織興奮性を低下し,興奮伝播遅延・ブロックを生じさせ,心房細動の慢性化を促すこと,さらにはそれがアブレーション治療に有効なCFAE成因にもなりうること等をシミュレーションで示したが,本研究では,さらにそれを推し進める形で,まずは心房細動の慢性化とCFAEの共通因子として影響しうるほかの因子についても調べを進めながら,新たな慢性心房細動アブレーションの方向性について検討を重ねつつある.前述の線維化における線維芽細胞の増生やコラーゲン沈着がもたらす影響のほか,心房筋の解剖学的構造や電気生理学的変化などが,心房筋における興奮波の増減バランスを決定付け,心房細動の慢性化とCFAE成因の共通因子となりうることを示すとともに,ひいては心房細動の持続性や治療可能性と関連している可能性を示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度となる平成25年度は,研究分担者である小澤や原口らの協力を得て,研究代表者の芦原がこれまでに開発してきたヒト心房筋数学モデル(Ashihara T, et al. Circ Res 2012)を基礎として,心房筋の線維化プロセスで観察される種々の因子に基づいて複数の慢性心房細動モデルを作成し,シミュレーション(in silico)実験によって,心房細動の慢性化とCFAE生成を同時にもたらす因子について網羅的に探索し,慢性心房細動モデルのライブラリ作成を開始するとともに,仮想的なカテーテルアブレーションの実験を繰り返す予定であったが,おおむねその方向で順調に進展している.これらの研究成果については,研究業績のリストにも示す通り,平成25年度だけでも複数の論文,総説,書籍,国内外の学会・研究会における発表のほか,教育講演,特別講演などでも報告した.また,関連の論文については,今年度の医科学応用研究財団助成による日本心電学会論文賞を受賞し,青森で開催された日本心電学会では受賞講演を行った. とくに,最近のトピックスの一つである慢性心房細動に対する神経叢アブレーションや興奮旋回の中心に対するFIRMアブレーションとの関連では,一見同じように見える心房細動でも,興奮旋回の成因によってカテーテルアブレーションによる不整脈治療効果が異なることをシミュレーション実験で示した. なお,シミュレーション実験に必要な計算プログラムの開発は,研究計画通りに研究代表者の芦原が,研究分担者である原口らの協力を得て滋賀医科大学に組み上げたクラスタ型高性能ワークステーションのLinux 環境でC言語を用いて行った.本システムの拡張には研究計画通り本研究費の一部を用いた.また,研究分担者の稲田らとともに,心房細動下の房室結節における興奮伝導の機序についても,重要な関連研究として進めている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の次年度となる平成26年度以降は,前年度に引き続き,慢性心房細動モデルのライブラリ作成を行う.また,そのライブラリに基づき,シングルチャネル遮断ならびにマルチチャネル遮断の薬理学的修飾を行い,心房細動の持続性やCFAE分布への薬理学的修飾効果を調べる.なお,研究代表者らは予備実験として,線維芽細胞CFAE仮説(AshiharaT, et al. Circ Res 2012)に基づいて作成された慢性心房細動モデルにおいて,IKr遮断が心房におけるスパイラルリエントリーの分裂を抑制することで,心房細動における興奮周期を延長し,CFAE領域を縮小するとともに,心房細動の持続性を低下させることを確認している.本研究では,これを応用して抗不整脈薬によるCFAEへの修飾効果を明らかにし,それが臨床や動物実験のデータと矛盾しないことを検証したい. さらに最終年度となる平成27年度には,CFAE標的アブレーションのシミュレーション実験を繰り返しながら,CFAE標的アブレーションの有用性と最適戦略に関する検討を行う.アブレーションに有効なCFAE波形の特徴,焼灼点の数,焼灼点間の距離,焼灼点の偏在の程度等を明らかにする一方で,薬理学的な修飾で狭まったCFAE領域をアブレーション標的としたとき,薬理学的な効果を除去してからも,心房細動の持続性や誘発性の低下が実現されているかについても確認する.薬理学的修飾を受けたCFAEを標的にしたとき,洞調律維持のために,抗不整脈薬の継続が必要かについては,臨床的に解決されているとは言えず,そのための理論的根拠が求められている. 本研究により,慢性心房細動アブレーションが標的とすべきCFAEの特徴とその成因,あるいはCFAEに代わるアブレーション標的が明らかにされれば,今後の慢性心房細動アブレーションの治療成績向上に繋がる可能性がある.
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