昨年度までに、本研究における大枠を確認する実験結果が得られ、心不全モデルにおける求心性心臓交感神経活動刺激から脳内視床下部における炎症性サイトカインの増加が生じ、その結果としての脳内Naチャネル活性化が生じることで、食塩感受性を獲得すること一連のスキームを確立した。本年度は、上記スキームの出発点である求心性心臓交感神経末端のTRPV1の関与を明らかにするために実験を行った。モデルとして、これまでの研究で用いた圧負荷心肥大モデルの作成をTRPV1ノックアウトモデル(TRPVKO)にて行った。TRPVKOマウスでは、心臓表面へのカプサイシン貼付による昇圧反応(求心性心臓交感神経反射)が、ほぼ完全にブロックされていることを確認した。続いて、慢性的心負荷として大動脈バンディングによる圧負荷を加えた場合に、ワイルドタイプで認める心肥大がTRPVKOマウスでは抑制されることが確認できた。また、ワイルドタイプで認める圧負荷による脳内分子機構の変化が、TRPVKOマウスでは抑制される結果も得られており、圧負荷心不全モデルにおける脳内分子機構の変化に求心性心臓交感神経末端に存在するTRPV1の活性化が関与する可能性が示唆された。今後、TRPV1の役割については、心臓特異的ノックアウトモデル(化学的脱感作も含め)での検討も必要であるが、当初想定した研究仮説は予定した研究計画に沿って概ね確認できたと思われる。
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