研究課題
抗不整脈薬の薬効評価についてはヒトの細胞で行うことが最も望ましく、ヒトiPS心筋細胞を用いて電気生理学的特性だけでなく分子生理学的作用を検討することは臨床的に意義深いことである。抗不整脈薬はチャネルの様々な部位に直接作用することによりチャネルの電気生理学的特性を変化させその効果を発揮するが、抗不整脈薬の中にはチャネルに対する直接作用だけでなく、チャネル遺伝子発現、翻訳後修飾などを調節することによる慢性効果を有するのではないかと考えられるものがある。本研究では、ベプリジルを中心とした抗不整脈薬のヒトiPS心筋細胞の電気生理学的特性に対する効果を検討した。山中3因子および4因子をレトロウイルスベクターを用いてヒト線維芽細胞に導入することによりヒトiPS細胞を樹立し、未分化iPS細胞においてSCN5A、CACNA1G、HCN4 mRNAの発現が確認された。ヒトiPS心筋細胞に対するベプリジルの効果検討では、SCN5A, CACNA1, CACNA1G, HCN4発現を濃度依存的に増加し、ベプリジルは未分化時の発現量のそれぞれ3倍、4倍、2倍、6倍に増加した。一方、KCNQ1はほとんど変化を認めなかった。以上の結果より、ベプリジルによるイオンチャネル遺伝子発現の変化量がチャネルによって異なることが明らかとなった。これはベプリジルの抗不整脈効果に差が出る可能性を示唆し、これらの遺伝子発現変化が通常より小さい個体においては、Na+チャネル、L型Ca2+チャネルなどの抑制効果が通常より強くなり心房性不整脈や心室性不整脈の抑制効果が増強されることが予想される。一方、CACNA1GやHCN4遺伝子発現量が減少すると自動能の抑制につながり、徐脈やブロックなどの副作用の原因となる可能性がある。このように、ベプリジルの薬物効果発現の機序として、慢性期効果は重要な所見であると考えられる。
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Am J Cardiol
巻: 115 ページ: 256-261
10.1016/j.amjcard.2014.10.034.