JCAD (junctional protein associated with coronary artery disease)(旧名KIAA1462)は、ヒトゲノムワイド関連研究において冠動脈疾患と強い相関を示すことが報告された細胞接着制御因子の一つである。JCADは、血管内皮細胞に特異的に高発現し、細胞間接着装置の中でも特にadherens junctionに局在することが報告されている。しかし、JCADの血管内皮機能に与える影響は不明である。本研究では、JCADが血管内皮細胞機能を修飾することにより心血管病の発症と進展における役割を検討した。 1. JCAD発現抑制による血管内皮細胞機能の検討: ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)に、siRNA法を用いたJCAD発現抑制(ノックダウン)を行い、細胞機能に与えるJCADの影響を検証した。まず、HUVECにおいてウェスタン法によりJCADノックダウンが確認できた。JCADノックダウンされたHUVECは、細胞増殖能が低下していた。また、マトリゲルをコートした培養ディッシュ上でのin vitroの管腔形成能も低下していた。さらに、細胞遊走能力が低下していた。以上より、JCADは内皮細胞の増殖、遊走、管腔形成に関与していることが示され、生体内では血管新生や動脈硬化などに関与することが示唆された。 2. 生体内でのJCAD発現抑制による血管新生の検討: 上述の細胞実験の結果を踏まえ、JCADノックアウトマウスの背部にマトリゲルを皮下注し、マトリゲルに侵入してくる血管内皮細胞とマトリゲル内のヘモグロビン含有量を定量化することにより血管新生を評価したところ、対照マウスに比べて血管新生が抑制された。さらにB16F10メラノーマ細胞接種による腫瘍増殖モデルにおいてもJCADノックアウトマウスでは腫瘍血管新生の低下に伴い、増殖が抑制された。しかし一方で生理的血管新生である網膜血管においてはその形態に違いをみとめず、JCADは病的血管新生を制御していることが明らかになった。
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