研究課題/領域番号 |
25461132
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
五十嵐 淳介 香川大学, 医学部, 准教授 (20346638)
|
研究分担者 |
小坂 博昭 香川大学, 医学部, 教授 (60158897)
橋本 剛 香川大学, 医学部, 助教 (80380153)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 血管新生 / 内皮細胞 / 受容体 / サイトカイン / 成長因子 |
研究概要 |
ウシ大動脈由来培養血管内皮細胞(BAEC)において、サイトカインTGFbeta1が、血管内皮成長因子(VEGF)受容体サブタイプの一つであるVEGFR2の発現をタンパク質、遺伝子のレベルで減弱させることを定めた。TGFbeta1によるVEGFR2発現の減弱効果は、TGF受容体アイソフォームのうちALK5に特異的な薬剤であるSB-431542によって阻害された。かかる内皮細胞がVEGFに対してどのような反応を示すかを、細胞内情報伝達系において検討した。MAPキナーゼであるERK1/2、及びプロテインキナーゼの一つであるAktはVEGF刺激により著明にリン酸化され活性化する。しかし、TGFbeta1で前処理した細胞ではこれらの反応は有意に低下していた。VEGFは血管新生、特に新生血管の出芽を促進する因子であるが、TGFbeta1はVEGFR2発現及びVEGF反応を低下させることで出芽を停止させて新生血管を成熟化させる可能性が示唆された。 一方TGFbeta1と同様に新生血管の成熟化を介して血管新生を調節する因子として、生理活性脂質の一つであるスフィンゴシン1リン酸(S1P)が知られている。我々は近年、アデノシン類縁体であるコアクロル(2-Cl.OXT-A)が強い血管新生促進作用を持つことを見出した(BBRC:2010:699及び国内特許第5288315号)。当研究において、コアクロルによる血管新生促進作用及びERK1/2活性化反応は、S1P受容体アンタゴニストであるW146及びS1P1受容体のsiRNAによる遺伝子ノックダウンで阻害されることを定めた。また、S1P1受容体の強制発現細胞膜を調製して、コアクロルと放射性S1Pの間で受容体結合の競合阻害が起こることが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイトカインTGFbeta1がVEGFR2の発現を低下させること及び、かかる反応にTGF受容体サブタイプのALK5が関与することを定めた。VEGFR2発現の低下がVEGFシグナルの阻害を引き起こすことを証明した。TGFbeta1・VEGFの両因子とも、関連する分子を標的として作成された遺伝子改変マウスの多くが致死的であることから両経路のクロストークにはこれまで不明な点が多かったが、当研究によって、新生血管の出芽(sprouting)を促すVEGFの経路を、新生血管成熟化促進因子の一つであるサイトカインTGFbeta1が阻害する機作を定めつつある。 一方、TGFbeta1とは別の新生血管成熟化促進因子として、生理活性脂質のS1Pが知られている。当研究グループは以前よりアデノシン類縁体であるコアクロルの血管新生促進作用を検討してきたが、当研究において、コアクロルがS1P受容体サブタイプの一つであるS1P1に結合・活性化して血管新生をもたらすことを明らかにした。このようにS1P1受容体の新規リガンドを同定したことで、S1P1を介した新生血管成熟化反応をさらに詳細に定める足がかりとなることが期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
TGFbeta1との関連では、VEGFR2の発現低下がVEGF反応の減弱と因果関係を有するか否かを、VEGFR2の遺伝子ノックダウンにより検討する。また、TGF前処置による血管内皮細胞のVEGF反応の変化を、細胞内情報伝達系以外の指標においても検討する(細胞遊走能、細胞増殖能、管腔形成能、透過能)。 S1Pとの関連では、コアクロルによるS1P1受容体調節の機序を、S1P1受容体の強制発現細胞において検討する。また、TGFbeta1経路とのクロストークについても定める。
|
次年度の研究費の使用計画 |
おおむね計画通りに研究を遂行し予算計画を執行したが、七万円強の金額を次年度使用分として持ち越した。 次年度使用分は主に細胞培養関連の消耗品の購入に使用する。
|