研究課題
当研究では前年度までに培養血管内皮細胞において、サイトカインTGFβ1が内皮細胞成長因子VEGFの受容体サブタイプの一つであるVEGFR2の発現を遺伝子レベル・タンパク質レベルでともに低下させることを見いだした。かかる反応はTGFβ1受容体の一つであるALK2/3に依存していることが阻害実験により分かった。このようにTGFβ1前処置によってVEGFR2の発現が低下した内皮細胞では、VEGFシグナルが著明に低下していた。さらに香川大学において新規に開発したアデノシン類縁体であるCOA-Cl(コアクロル)が、内皮細胞のスフィンゴ脂質受容体であるS1P1に結合し活性化させて血管新生反応を促進することを見いだした。サイトカインTGFβ1とS1P1受容体の内在性リガンドである生理活性脂質・スフィンゴシン1リン酸(S1P)は、ともに新生血管の成熟化反応に関わる因子である。以上より、血管新生の分子機作に関する新しい知見を加えることができた。前年度にはヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)において、COA-ClのVEGF遺伝子発現・タンパク質分泌への効果を検討した。COA-ClはNHDFでVEGFの遺伝子誘導・タンパク質分泌をともに促進した。VEGF遺伝子を調節する因子として、1)低酸素ストレスに関わる転写因子であるHIF1αと、2)代謝ストレスに関わる転写補助因子であるPGC-1α及びその下流で働く転写因子であるERRα、の二つの経路が知られている。COA-ClによりPGC-1α遺伝子は時間・用量依存的に増加したが、HIF1αのそれは変化しなかった。PGC-1α遺伝子をRNA干渉によりノックダウンすると、COA-ClのVEGF誘導能は顕著に阻害された。以上よりアデノシン類縁体COA-Clが、線維芽細胞において転写補助因子PGC-1α及び転写因子ERRαを介してVEGFを誘導することが分かった。
2: おおむね順調に進展している
血管新生、とりわけ脆弱な新生血管がどのように成熟化していくかのプロセスに着目して研究を行った。その結果、既知のサイトカインTGFβ1がVEGF受容体の発現レベル調節に深く関わることを見いだした。また、研究代表者らが開発し特許権を有するアデノシン類縁体COA-Clが、スフィンゴ脂質受容体であるS1P1に結合しこれを活性化させて血管新生反応を促進することを見いだした。TGFβ1とS1Pはともに新生血管の成熟化反応を促す因子として知られていることから、当研究はその当初に設定した目的に、順調に近づきつつあると言える。さらにCOA-Clには、新生血管の出芽を促す分子として知られるVEGFを誘導する作用があることも分かった。COA-Clは香川大学で開発した物質であり、これに血管新生の「出芽」と「成熟」の両方のステップを促進する作用が判明したことは、当研究の目的からして著明な進展であったと言える。
これまでの検討により、COA-Clには血管内皮細胞においてはS1P1受容体を介して新生血管の成熟化シグナルを生じさせつつ、線維芽細胞を含む間葉系細胞からはVEGFを分泌させて新生血管の出芽を促すという、極めてユニークな薬理活性を有することが明らかとなった。前年度に進展した、COA-Clの効果に注目して検討を進める。具体的には1)PGC-1αの遺伝子プロモーター解析(ルシフェラーゼアッセイ)2)COA-ClによるPGC-1α遺伝子活性化機構の解析(セカンドメッセンジャーの測定:カルシウムとcAMP)3)低酸素ストレスの効果4)線維芽細胞で得られた知見の心筋細胞への展開、について研究を進める。
実験の都合上、若干の使用残が生じた。
試薬等の購入に充当する。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Mol Cell Endocrinol
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doi: 10.1016/j.mce.2015.02.012
Pharmacology Research & Perstective
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