研究課題/領域番号 |
25461135
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
的場 哲哉 九州大学, 大学病院, 講師 (20448426)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 血管生物学 / ドラッグデリバリーシステム / トランスレーショナルリサーチ / 循環器・高血圧 |
研究概要 |
本研究の目的は、申請者らが世界に先駆けて研究開発した独創的なナノ粒子・ドラッグデリバリーシステム(ナノDDS)技術とPPARγアゴニストの融合によって標的細胞選択的PPARγ活性化を達成し、動脈硬化、心筋虚血再灌流、重症虚血肢、血管形成術後再狭窄、肺高血圧症などの難治性心血管病に対する革新的PPARγナノ医療の研究開発を行い臨床橋渡し研究への基盤とすることであった。 平成25年度は、心血管病の中でも予後に対する悪影響の大きい動脈硬化性プラーク破綻および心筋虚血再灌流について検討を行った。申請者の研究グループは、近年の研究成果からマウスにおける動脈硬化性プラーク破綻モデルを確立した。PPARγナノ医薬(ピオグリタゾン封入ナノ粒子)は予想したように炎症性単球/マクロファージの形質を制御する事により、プラークを安定化させた。 また、マウス心筋虚血再灌流モデルにおいて再灌流時にイルベサルタン・ナノ粒子を静脈内投与したところ、心筋梗塞領域の縮小効果を認め、この効果は虚血再灌流後の心臓組織における炎症性サイトカインの発現抑制、および心臓に浸潤する単球/マクロファージの抑制(抗炎症効果)を介する事が明らかとなった。心筋虚血再灌流における抗炎症治療の意義は確定していなかったが、本研究の中で、ケモカインMCP-1受容体であるCCR2欠損マウス、および虚血再灌流障害によるミトコンドリア傷害の中心的な分子であるcyclophilin Dの欠損マウスを駆使する事により、抗炎症治療の意義を示し、さらにPPARγナノ医薬によってその機序を標的化できることを示しており、その臨床医学的意義は大きいと考えられる。論文の投稿を開始しており、さらにPPARγナノ医薬の検討を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PPARγアゴニストとしてチアゾリジン誘導体ピオグリタゾン、およびPPARγアゴニスト作用を持つアンギオテンシン受容体拮抗薬であるイルベサルタンを封入したポリ乳酸/グリコール酸(PLGA)ナノ粒子作成した。 マウス動脈硬化性プラーク不安定化モデルにおいて、ピオグリタゾン封入ナノ粒子の動脈硬化病変への効果を検討し、病変におけるマトリックス分解酵素活性(MMPおよびcathepsin)の抑制とプラーク破綻の抑制を認めた。骨髄由来単球/マクロファージにおいて、ピオグリタゾン封入ナノ粒子は炎症性サイトカイン(IL-1β)およびマトリックス分解酵素誘導因子(EMMPRIN)の発現を抑制し、抗炎症性サイトカイン(IL-4)を誘導し、分子機序と推察された。 また、マウス心筋虚血再灌流モデルを作成し、再灌流時にイルベサルタン・ナノ粒子を静脈内投与したところ、心筋梗塞領域の縮小効果を認め、この効果はPPARγアンタゴニストでキャンセルされた。心筋梗塞領域の縮小効果は、虚血再灌流後の心臓組織における炎症性サイトカインの発現抑制、および心臓に浸潤する単球/マクロファージの減少を伴ったため、主に抗炎症効果を介すると推察された。 PPARγアゴニストによって制御されるPPREプロモータにより蛍光タンパク(DsRed-Express2, Clontech社)を発現するレポーター遺伝子改変マウスを作製したが、心臓組織および白血球においてPPARγアゴニストによる蛍光タンパク発現レベルが不十分であり、細胞特異性は明らかにできなかった。従って計画を変更し、ケモカインMCP-1受容体であるCCR2欠損マウスにおいてイルベサルタン封入ナノ粒子の治療効果を検討したところ、梗塞領域縮小効果は認めず、イルベサルタン封入ナノ粒子が主には炎症性単球の抑制を介して効果を発揮していると結論した。論文の投稿を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の成果から、心筋虚血再灌流障害における、心臓の炎症の役割が明らかとなった。また、従来より虚血再灌流障害によるミトコンドリア傷害の心筋細胞死への関与が報告されている。これらの分子・細胞機序の相互作用、およびPPARγを介した治療標的化について検討を進める。すでにCCR2欠損マウスにおいて、心筋虚血再灌流障害に対するピオグリタゾン封入ナノ粒子の効果を検討しており、また、虚血再灌流障害によるミトコンドリア傷害の中心的な分子であるcyclophilin Dの欠損マウスを入手しており、このマウスにおける心臓の炎症、およびPPARγ活性化ナノ粒子の治療効果の検討を行う。 また、当初計画に挙げていた心血管病モデルの中で、血管傷害モデル(マウス)において、血管傷害後の新生内膜形成に対するピオグリタゾン封入ナノ粒子の効果を検討する。マウス大腿動脈ワイヤー傷害モデルを用いた予備検討において、傷害直後の血管内腔からの投与により、PLGAナノ粒子が中膜平滑筋細胞に送達される事を確認している。
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