肺動脈性肺高血圧症(PAH)は予後不良の難治性疾患であり、BMPR2遺伝子の変異が発症に関与することが報告されている。しかし、PAHの臨床上、極めて重要な課題として、BMPR2遺伝子変異が存在しても発症しない人がいる一方、BMPR2遺伝子変異が存在しないのに発症する人もおり、そのメカニズムが全く解明されていないことが挙げられる。また、血縁親族にPAH患者が存在し自身がBMPR2遺伝子変異を持つがPAHを発症していない人では、今後自身が発症する可能性があるのか、なぜ発症していないのか、等の疑問が生じ、結婚や子供などの人生設計へも強く影響する。遺伝子異常の検査が多くの施設で可能となりつつある昨今では、BMPR2遺伝子変異の有無を検査することはそれほど困難ではないが、それゆえ、患者及びその家族は、遺伝子変異の検査結果に左右され、精神的にも人生設計の面でも多くの影響を受ける可能性がある。一方、BMPR2遺伝子に変異が見られない場合でも発現量が減少している例が存在する。さらにPAHが女性に偏って発症し、変異を持ちながら未発症な者は男性が多いなど、epigeneticな修飾による制御が関与することは、極めて重要かつ急務な課題である。本研究の実績としては、未発症者を含めた患者の末梢血や剖検組織等を試料に、BMPR2遺伝子の転写制御領域のメチル化やnon-coding RNA、特にlincRNAによるepigeneticな発現または機能抑制の可能性を検討した。さらにBMPR2遺伝子変異を有していながら発症している人と未発症者での発現解析を実施し、epigeneticな発症制御に強く関与する因子を同定した。
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