研究課題/領域番号 |
25461142
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
磯田 菊生 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00532475)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 動脈瘤 / 炎症 / サイトカイン / 骨髄 / DPP-4阻害薬 |
研究実績の概要 |
平成26年度は大腿動脈瘤形成の観察を行い、まず外膜側への炎症細胞浸潤で始まることより、外膜炎症刺激モデルの大腿動脈カフ傷害を使用した研究を行った。外膜側に集積する炎症細胞の効果を明らかにするため、IL-1Ra欠損マウスと野生型マウスの骨髄を野生型マウスに移植したところ、IL-1Ra欠損骨髄由来の炎症細胞は大腿動脈周囲に有意に多く浸潤し、血管の炎症・新生内膜形成の促進を起こした。逆に野生型マウスの骨髄をIL-1Ra欠損マウスに移植すると血管傷害後の炎症と内膜肥厚が有意に抑制されることが分かった。このことはIL-1Ra欠損骨髄由来の炎症細胞が大腿動脈瘤形成に大きく寄与していることを示していると考えられた。この成果を論文にし、J Atheroscler Thromb (21:1208-18,2014)に発表した。 更に最近抗炎症作用が証明されているDPP-4阻害薬(アログリプチン)が外膜刺激モデルにおける炎症および内膜肥厚を抑えうるかの検討を行った。大腿動脈の外膜刺激前より経口投与にてアログリプチンを内服させると生食を投与させて群に比較して、炎症および内膜肥厚を有意に抑制することが分かった。従来、動脈瘤進展抑制には降圧薬であるアンジオテンシン受容体拮抗薬やβ遮断薬などの有用性は示されていたが、血糖コントロールとは無関係にDPP-4阻害薬にその可能性があることを本研究は示している。この成果も論文化してアメリカ心臓議会の機関紙であるJ Am heart Assoc (4: e001469,2015)に発表した。 上記に平行して、アンジオテンシンII負荷によるIL-1Ra欠損マウスの腹部大動脈瘤形成モデルの確立を開始し、その詳細な検討を平成27年度に行うこととした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腿動脈瘤形成機序に関する研究として、まず抗炎症性サイトカインであるIL-1Raがない炎症細胞が瘤形成に大きく関与していることを明らかにすることができ、論文発表まで行えた。 更に、DPP-4阻害薬のアログリプチンが血糖コントロールに依存せずに抗炎症作用を発揮し、動脈瘤形成抑制の新しい治療薬となりうる可能性を示した。これも論文発表することができた。 現在、アンジオテンシンII負荷によるIL-1Ra欠損マウスにおける腹部大動脈瘤形成モデルを確立中で、概ね順調であると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
大腿動脈瘤の3つのタイプに関する病理的な検討は進行中で、免疫染色によりそれぞれのタイプの動脈瘤の外膜には異なった炎症細胞が優位に存在することを明らかにできている。この変化に関して、さらにサイトカイン発現やMMP発現に関する免疫染色を進める予定である。さらに、それぞれの動脈瘤の外膜側よりmRNAやタンパクを抽出し、発現パターンの特徴を明らかにしていく。 平成26年度の検討で行ったアンジオテンシンII負荷モデルの検討では、野生型マウスと比較してIL-1Ra欠損マウスでは血圧上昇や腎臓の炎症が有意に惹起されることが分かった。この結果は今まで報告されている高血圧発症機序とは異なるため、新しい治療法開発の鍵になるのではないかと考えている。平成27年度はアンジオテンシンII負荷モデルの更なる解析を推進する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2014年は防衛医科大学校から順天堂大学大学院医学研究科への施設の移転があり、移転に伴う手続きが完了するまで、順天堂大学での研究に科研費を使用することが出来なかった。そのため、4月から7月の研究には他の学内研究費を回して実験を行ったため、次年度へ繰り越す費用が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
繰り越し費用は現在進行中の研究で発見されたIL-1Raと高血圧発症の関係を明らかにする実験に使用する予定である。
|