研究課題/領域番号 |
25461153
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田澤 立之 新潟大学, 医歯学総合病院, 准教授 (70301041)
|
研究分担者 |
中田 光 新潟大学, 医歯学総合病院, 教授 (80207802)
石井 晴之 杏林大学, 医学部, 講師 (30406970)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 肺胞蛋白症 / GM-CSF / 抗GM-CSF抗体 / 気管支肺胞洗浄液 |
研究実績の概要 |
自己免疫性肺胞蛋白症は,GM-CSFに対する自己抗体の出現により肺胞マクロファージのサーファクタント除去能が低下し,肺胞内に無構造物質が蓄積して呼吸不全をきたす.本研究では,肺胞蛋白症の新規治療として期待されるGM-CSF吸入治療の治療効果のメカニズムを画像~細胞まで様々なレベルで探っている.本邦の医師主導の多施設第Ⅱ相試験のGM-CSF吸入治療を完遂した肺胞蛋白症患者の治療後3年の経過観察の検討で,治療前の肺機能検査での肺活量が追加治療までの期間とKaplan-Meier解析で有意に相関し,治療後の予後と関連することが示されている.そこで肺活量の低下の原因として,肺線維化との関連を考え,当該患者の胸部CT画像32例の線維化所見を複数の独立した放射線科医により再検討したが,線維化関連所見として牽引性気管支拡張,気管支拡張症,多発性嚢胞を各1例みるのみで,線維化との明らかな関連はみられず,肺胞内へのサーファクタント物質の蓄積の多寡による可能性が残った.上記の患者CTの解析では治療後のHRCTスコアが,予後に関連することも示された.CTスコアは血清マーカーや肺活量とも有意に相関することが観察されているので,こうした臨床マーカーから肺内沈着物質量を評価する必要が考えられた.GM-CSF吸入治療に用いられる大腸菌ないし酵母由来のヒトリコンビナント(rh)GM-CSFでは糖鎖はほとんどないがヒトの体内のrhGM-CSFは糖鎖の付加がある.哺乳類細胞株のCHO細胞由来のrhGM-CSFも糖鎖が多く,GM-CSF依存性細胞株に対して長時間作用での増殖活性が高い.この活性は,シアリダーゼ処理により糖鎖のシアリル基をとると著しく減少することから,このシアリル基がGM-CSF活性に重要であると考えられた.ヒトのGM-CSFは様々な分子量のものが精製されており,糖鎖修飾の程度により受容体との親和性が変化して組織特異的な活性を生じている可能性も考えられた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GM-CSF治療を受けた肺胞蛋白症患者の新規例の臨床情報の蓄積が進み,肺機能検査やCT検査,血清マーカー等の解析が進み,肺活量の低下の重要性が明らかとなり,肺活量低下の原因として肺線維化の放射線科医による評価を行ったが,明らかな関連はみられず,肺線維化以外の肺内沈着物質量などの要因が関与する可能性が示された.肺胞蛋白症患者の胞洗浄液での抗体価および抗原抗体複合体の解析が進んでいる.GM-CSFの糖鎖修飾と生理機能活性との関係について、GM-CSF依存性細胞株での解析が進み,シアリダーゼによる処理でのシアリル基の重要性が明らかになっている.以上のように各領域で解析が進み,新知見が得られ,概ね順調に進展している.
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策 ①画像所見の解析:GM-CSF吸入治療を受けた肺胞蛋白症患者の画像解析について,治療後の予後と相関する肺活量の低下に関連した所見として,32例の放射線科医の肺線維化の検討をおこなったが有意の結果が得られなかったので,肺活量と陰影範囲の関連と,陰影の改善がどの領域でみられたかに視点を置いて検討する.吸入治療後の予後については,吸入治療直後の下肺野のCTスコアが関連を示唆する結果が得られているが,治療前の肺胞蛋白症患者のCT所見では下肺野が最もスコアの高く,改善を反映しやすい領域の可能性がある.新規治療例のCT所見も含めて検討を進める. ②PAP患者の検体の解析:肺胞洗浄液および血清中のGM-CSF,抗GM-CSF抗体の定量ならびに,両者の結合した抗原抗体複合体の解析を進める.末梢気道内に蓄積したサーファクタント物質と気道上皮細胞の関連について検討するため,上皮関連マーカー,腫瘍関連マーカーの解析を行う. ③培養細胞を用いた解析:GM-CSF依存性細胞株における大腸菌由来GM-CSF製剤,酵母由来GM-CSF製剤,CHO細胞由来GM-CSF製剤の効果および糖鎖修飾の差について検討を行う.またGM-CSF刺激に関してGM-CSF製剤を哺乳動物に長期間欠吸入させて得られた血液および肺胞洗浄液検体との比較解析を行う.
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) ヒトリコンビナントGM-CSF製剤の糖鎖に関する解析にかかる費用およびGM-CSF刺激に関しての実験で,ELISA,多項目同時測定および遺伝子発現解析を行うため.
|
次年度使用額の使用計画 |
(使用計画) ①PAP患者の検体での各種ELISA, 上皮関連マーカー,腫瘍関連マーカー測定に使用する.②GM-CSFおよび抗GM-CSF抗体の量的解析のためのELISA測定に使用する.③培養細胞,検体細胞の評価のための多項目同時測定や遺伝子発現解析に使用する.
|