研究課題
背景:近年、肥満は喘息のリスク因子であり、肥満喘息患者は喘息コントロールが悪く、喘息治療に対する反応性も悪い。また、肥満喘息患者は減量によって症状が改善することが明らかにされている。肥満は、胸壁や横隔膜近傍に余剰な脂肪組織が蓄えられること、肺の血流が増加することなどにより機械的に呼吸機能が低下することに加え、肥満に伴い脂肪細胞からの産生が増加するアディポカインが炎症細胞を活性化し、気道炎症を増悪することが報告されている。しかしながら、アディポカインが直接気道構成細胞に及ぼす影響を詳細に検討した報告は少ない。目的:アディポカインの一つであるレプチンが、気道構成細胞である気道上皮細胞に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。方法:ヒト気道上皮細胞株(BEAS-2B)および正常ヒト気道上皮細胞(NHBE)に、レプチンおよびTNF-α等の炎症制サイトカインを作用させ、気道上皮細胞のICAM-1発現およびアポトーシスをフローサイトメトリーにて解析した。また、レプチンレセプター、Ob-RのSiRNAをトランスフェクトし、レプチンの作用が抑えられるか検討を加えた。ボイデンチャンバーを用いて下室にレプチンを加え、NHBEのレプチンに対する遊走能を解析した。結果:フローサイトメトリーにより、レプチンは濃度依存的にBEAS-2BおよびNHBEのICAM-1発現を誘導した。また、高濃度のレプチンは、BEAS-2Bのアポトーシスを抑制した。Ob-RのSiRNAをトランスフェクトすると、BEAS-2Bのレプチンレセプターの発現は、mRNAおよびタンパクレベルで低下し、レプチン刺激によるICAM-1発現は抑制された。NHBEは、レプチンに対し、濃度依存的に遊走した。考察:肥満が喘息を増悪する機序の一つに、レプチンによる気道上皮細胞の活性化が存在し、それはレプチンがOb-Rに結合することによるものであることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
昨年度行った実験で、気道上皮細胞はレプチンレセプターを発現しており、レプチンが気道上皮細胞からのサイトカイン産生を惹起することを見出した。今年度は引き続き、アディポカインの中でもレプチンに焦点を絞り、気道上皮細胞とアディポカインの関連を解析し、さらにその機序を解析した。興味深いことに、レプチンは気道上皮細胞の発現する接着分子、ICAM-1の発現を増強し、高濃度でアポトーシスを抑制し、さらに気道上皮細胞の遊走活性を有すことを見出した。また、その機序として、既報のレプチンレセプター、Ob-Rが関与することを明らかにした。一方、レプチンによる気道上皮細胞のICAM-1発現、アポトーシス抑制、遊走についてはデータが蓄積し、さらにそのレセプターは明らかにし得たが、レプチンによる気道上皮細胞内シグナル伝達経路の解明はまだ中途の段階であり、これらのデータがまとまり次第、学術誌に投稿を予定しており、来年度中には結果を報告できる予定であり、これは計画以上のスピードである。そこで、引き続き臨床検体を用いた解析を行う方針としている。現在、当院倫理審査委員会で承認された研究計画書に則り、外科医、病理医と共に、患者由来の肺構造細胞を蓄積している段階である。既に約60症例の気道上皮細胞を取得し、冷凍保存しているため、来年度は速やかに臨床検体の解析を行うことが可能と考えられ、大凡計画に沿ったスピードである。
今年度、レプチンによる気道上皮細胞の活性化マーカー発現、アポトーシスの抑制、遊走活性を認め、その一部はレプチンレセプター、Ob-Rを介して引き起こされることが明らかになったため、来年度は引き続き、その機序の解析を進める。具体的には、細胞内シグナル伝達物質のインヒビターを用いて、その責任分子を明らかにし、その分子がレプチン刺激によりリン酸化されることをウエスタンブロット等で確認する。データが揃えば、速やかに学術誌に報告を行う。また、実際のヒト手術検体から分離培養した気道上皮細胞、およびその患者由来の血清、切除肺標本を用いて検討を行う予定である。切除肺標本を用いて、Ob-Rおよびレプチンの免疫染色を行い、それぞれの患者保存血清のレプチン値を測定し、BMIのデータや、呼吸機能検査と併せて、気道上皮細胞とレプチンの関係を包括的に明らかにする予定である。
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