近年、がん細胞における多様なゲノム異常の中に、がんの発生や細胞増殖の直接的な原因となる体細胞性の遺伝子異常が存在することが明らかになった。このような遺伝子はドライバー遺伝子と呼ばれ、がん薬物治療の真の標的である。現在非小細胞肺がんでは、EGFR、ALK、RET、ROS1、BRAFなど約10種類程度のドライバー遺伝子がすでに報告されており、個々のがんの遺伝子情報に基づいた分子標的治療によって、肺がん全体の予後改善をもたらすことが期待される。 そこで、この治療法の確立に向けて鍵となるのは、肺がんの適切な遺伝子診断である。申請者は本研究でターゲットキャプチャー法と次世代シークエンサーを用いた新たなマルチプレックス肺がんゲノム診断システムの開発を試みた。昨年度までの検討で、すでに肺がんの微量FFPE試料からでも本法で正確に、変異、融合など様々なタイプの遺伝子異常を検出可能であることが確認された。また、ドライバー遺伝子が高頻度と予想される若年者肺腺癌コホートを用いて本方法で解析し、若年者特有の遺伝子異常プロファイルを明らかにした。最終年度では、分子標的薬治療中の耐性化に関わる遺伝子異常の診断に対応するべく、肺癌患者末梢血遊離DNAから本方法での遺伝子診断を試みた。その結果、ミスセンス変異、欠失変異などの遺伝子変異の検出が可能であることを明らかにしたが、融合遺伝子の検出については今後の課題であることが示された。
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