近年、肺毛細血管密度の減少が肺気腫をきたす一因であると考えられている(CHEST 2010; 138: 1303-8)。動物実験では、培養されたヒト臍帯静脈血管内皮細胞(Human Umbilical Vein Endothelial Cell:HUVEC)をラットへ腹腔内注入(または皮下注入)すると、抗HUVEC抗体が産生されることにより肺血管内皮に障害を与え、肺気腫を形成すると報告されている(Am J Respir Crit Care Med 2005; 171: 734-42)。この自己免疫性肺気腫モデルにおいて、Western Blot法やBIACORE3000を用いてラット血清中の抗血管内皮細胞抗体の存在を明らかにし、さらに対応抗原を確認、同定することを研究の目的とした。動物モデルを作製するため、passage 1(P1)のHUVECを培養、継代し、P4になったところで実験に用いた。既報に基づいて、HUVECを6週齢のオスSDラットに腹腔内注入し、3週後の肺気腫形成を試みた。ブースター効果の目的で、HUVECとアジュバントを追加投与する群も用意したが、対照群と比べ明らかな気腔の破壊・拡大は確認できなかった。そこで、9週齢解剖群に加え、HUVEC投与後6週で解剖する長期観察群を置き、同様に肺気腫形成の有無を調べた。12週齢解剖HUVEC投与群では、対照群に比べ気腔の拡大傾向を認めたものの、統計学的な有意差には至らなかった。 抗血管内皮細胞抗体などin vitroの実験に移る前段階において、HUVECを用いたラット自己免疫性肺気腫モデルの作製は困難と判断せざるを得ない結果となった。
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