研究課題
末梢肺の発生に必須なTTF-1遺伝子の発現持続は、末梢肺由来の肺腺がん細胞の生存に必須であるが、TTF-1が伝える生存シグナルは、永らく不明のままであった。近年我々は、TTF-1によって転写活性化される受容体型チロシンキナーゼROR1がその生存シグナルを担っていることを突き止めた。また重要なことに、ROR1は上皮成長因子受容体であるEGFRと相互作用することによりEGFRシグナルの維持に関わっていることが明らかになった。本研究課題の目的は、ROR1とEGFRのような他の受容体型チロシンキナーゼ(RTK)との新たなクロストーク制御機構を明らかにし、がんにおいて非常に注目を集めつつあるROR1が制御する新たなシグナル伝達機構の解明を行うことにある。最終年度である平成27年度は、当初の研究実施計画通り、順調に遂行した。これまでの研究結果から、肺腺がん細胞株においてROR1の発現抑制は、様々なRTKの活性化の低下を引き起こすことや、他のRTKの活性化を介したバイパスシグナルによってゲフィチニブなどのEGFR-TKIに対する抵抗性を獲得した肺腺がん細胞株においても、ROR1の発現抑制は細胞増殖を有意に阻害することを明らかにしてきた。今回我々は、肺腺癌細胞株においてROR1の発現抑制は有意なCAV1の発現低下を引き起こすことから、ROR1がカベオラの構成分子であるCAV1の発現を制御していることを新たに発見した。またCAV1の発現抑制によってもROR1の発現抑制のときと同様に、様々なRTKの活性化の低下や肺腺癌細胞株の細胞増殖を阻害することが分かった。これらの結果は、ROR1を介したカベオラ制御機構が様々なRTKの活性化の維持とそこから伝わる生存シグナルに深く関与している可能性が示唆された。今後はROR1によるカベオラ制御に関わる詳細な分子機序について迫る研究を展開していきたい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件) 図書 (1件)
Nature Communications
巻: 7 ページ: 10060
10.1038/ncomms10060